2005年10月26日
ゴルフカートの運転手
アメリカのシニアツアーであるチャンピオンズツアーでは、昨年まで試合におけるカート使用が許可されていた。今年からはカート使用が禁止になり、足腰に故障をもつ選手たちが訴訟を起こす事態に発展している。
それはさておき、10年ほど前、チャンピオンズツアーに初めて取材に行って、とても驚いたことがあった。当時はもちろんカートが使われていたのだが、ふと見ると、有名選手が自分でカートを運転し、キャディはその横にちょこんと座って、「ら~くらく」という表情だったからだ。普通に考えれば、ラウンド中に選手を助けるべきキャディがふんぞり返り、選手に運転させているなんて、おかしいではないか。だが、あっちを見てもこっちを見ても、大抵の場合、選手が自らハンドルを握っており、なんか変だなあと首を傾げたものだ。それ以来、同じような光景を目にしても、それが当たり前なのだろうと思って、気にも留めなくなっていた。だが、ここ最近、その疑問が再び浮上した。
シニアではなくレギュラーツアーの米PGAツアーでも、選手のカート使用を目にすることがある。もちろん試合中ではないが、複数のコースを使用する試合の場合は練習日にカート使用が許されることがあるのだ。その1つ、フロリダ州オーランドで開催されたフナイクラシックは、マグノリアコースとパームコースの両コースを使うため、練習ラウンドの時間をセーブするためにカート使用が許される。
で、その練習日、あのビジェイ・シンがキャディを横に座らせ、自分で運転している姿を発見した。あのビジェイも自分で運転するのか、と思ったら、かつての疑問がどんどん膨らみ始め、周囲を見回した。すると、やっぱり選手が運転するパターンのほうが圧倒的に多いことがすぐにわかった。なぜキャディではなく選手が自ら運転するのだろうか。

ゴルフの練習も、カートの運転も、どちらも楽しそうなシン。
Photo/JJ Tanabe
そう思いながらテクテクとコースを歩いていたら、後ろからカートでやってきたクレッグ・バーローのキャディが「乗っていくかい?」と声をかけてくれた。「いいの?ラッキー!」と飛び乗り、このときとばかりに疑問をぶつけてみた。「あなたは、いつも自分でカートを運転するの?それとも選手が運転するの?」キャディの答えは、こうだった。「いや、運転するのは選手のほうだ」
どうしてなのだろう?「オレはイギリス人なんだけど、ヨーロピアンツアーでは、普通はキャディが運転して選手は横に座る。でも、アメリカツアーでは、選手が運転したがるんだよ」「なぜ?」「さあ、なぜだろう。たぶん、アメリカ人だからだろうなあ」「なるほど~」
そう答えたものの、何が「なるほど」なのか、よくわからない。ただ、「アメリカ人だから」という言葉に一理あるのは確かだ。個人主義のアメリカ人。合理主義のアメリカ人。自由を求めるアメリカ人。自分で運転したほうが、好きなときに好きな方へ好きなスピードで行けるし、好きなときに好きなところで止まれるし、だから人に頼むより運転するほうがいいということ。そのほうが選手にとっては自由だということ。キャディは選手に雇われているわけだけど、雇用主の選手がカートを運転してはいけないなんて誰が決めた?‥‥というところだろうか。

今年の米LPGA・QT1次予選での風景。藍ちゃんも、カートの運転には慣れている。
Photo/JJ Tanabe
ビジェイはアメリカ人ではなくフィジー人。だが、アメリカ生活が長く、すっかりアメリカナイズされているビジェイは、考え方もアメリカンになっているに違いない。そう言えば、アーノルド・パーマーの大会であるベイヒルインビテーショナルでは、パーマーが自らカートを運転して会場内を行き来する姿を毎年、見かける。キングでさえ、自分でカートを運転する--アメリカとは、そういう国なのだ。
舩越園子



