2008年07月31日
全英女子オープンが明日、開幕する。英国サニングデールは2週間前の男子の全英オープンとは、まるで異なる天候だ。快晴で気温も高く、半袖で十分なほど。ただし、風だけは強く、それがどう影響するかが見どころ。そして、明日の初日はどうやら雨が降るらしく、そうなると、コースコンディションも変わる。練習日と試合の日でガラリと変わるコンディションをどう切り抜けるか。そのあたりも、おそらくは見どころになるだろう。
サニングデールは、一見すると、日本の林間コースっぽい雰囲気。バンカーもポットバンカーではなく、比較的浅いバンカー。グリーンも砲台風のせり上がったグリーンがいくつかあり、全英で定番の転がしが必ずしも武器になるとは言えない。だが、風雨の中のゴルフになったとき、パッと見て日本風のこのコースが、一体どんな風に英国らしさを発揮するのか。それが、とても楽しみだ。
開幕前の話題は、とりあえず2点に絞られていると言っていい。1つは、ロレーナ・オチョアの全英2連覇が達成されるかどうか。そして、もう1つは、アニカ・ソレンスタムの最後のメジャーがどんな展開になるか。

(男子に続き女子も大会2連覇?記者会見中のオチョア)
オチョアは、男子の全英でパドレイグ・ハリントンが2連覇をやってのけた姿を見て、「私もあれをやりたい!」と強く感じたのだそうだ。うーん、そりゃそうだ。そう思うことができる立場の選手は、世界中を探してもオチョアだけなのだ。是非、「私も」を達成してほしい。
そして、アニカのほうは「やっぱりエモーショナルな大会になると思う」。しかし、すでに彼女は「かつてのような渇望やハングリーさは、もうない。だから私は引退を決意したんだもの」とも言う。つまり「渇望、希望」と、そのための「努力」のバランスが崩れてしまったということ。そうなると、アニカにとって最後のメジャーだから優勝してほしいという人情は沸いても、アニカが優勝するだろうという予想は沸いてこない。好プレーは披露するだろうし、元女王なりの経験を生かしたワザも見せるだろう。しかし、優勝はきっとできないと思う。
私の個人的な予想と希望的観測からすると、優勝候補の筆頭はオチョア。優勝争いに絡んできそうなのは、波に乗るポーラ・クリーマー、それに申智愛、ヤニー・ツエェン。さあ、どうなるか。明日からが楽しみだ。
(ノーマンのような活躍、さらには優勝も十分期待でき……ないか?)
Photo/JJ Tanabe
2008年07月26日
全英オープン3日目が終了したころ、アメリカから伝わってきたニュースがあった。それは、米LPGAのステートファームクラシックでミッシェル・ウィーがDQ(失格)になったというもの。すでに、みなさんもご存知だと思うが、ウィーは2日目のラウンド後、スコアカードにサインをし忘れたままアテストテントを離れ、追いかけてきたボランティアの係員に促されてアテストテントに戻り、署名。それでOKだとウィーは信じて疑わなかったのだが、実は彼女はアテストテントを離れた時点で失格だったのだ。翌日の第3ラウンドをプレーしている間に、コトの経緯がLPGA内で発覚。第3ラウンド後、LPGAオフィシャルがウィーに確認。失格が確定し、言い渡された。
優勝も狙える位置だったウィーが、こんな形で失格になるのは、かわいそうな気もするが、もちろんルールはルールだ。もし優勝していれば、ウィーは今秋のQスクールを受けずして09年のシードが確定するところだったから、心情的にはやっぱりかわいそう。何かをうっかり忘れてしまうことは、誰にだってあるだろうけれど、よりによって優勝争いに絡める位置につけながらサインを忘れるとは……。こんなことになるなんて、一体、神様か閻魔さまか、誰の仕業なんだろうとも思うが、やっぱり本人の責任以外のナニモノでもない。
「ホントに、なんだか、かわいそうだなあ」と思っていたのだが、「えっ?何々?」と思わされたのは翌日の日曜から月曜へ日付が変わったころだった。自動的に送信されてくる「ニュースメール」を見て仰天。失格になったばかりのウィーが、米PGAツアーのリノタホ・オープンに招待され、ウィーがそれを受け入れて出場することが決定したという緊急ニュース!「それ、ちょっと違わない???」と、いきなりびっくりしてしまった。
リノタホは、全英女子オープンと同週の開催。ウィーは全英女子の出場資格がなく、この週はオフだったわけだから、他に出られる試合があれば、もちろん出るのは構わない。というより、せっかく調子が戻りかけている今だからこそ、なるべく多く試合に出たほうがいい。だが、どうも解せないのは、失格騒ぎの直後の招待というタイミングだ。

(技術も精神面も、まだまだ“アマイ”と言わざるを得ないのだが…)
Photo/JJ Tanabe
米PGAツアー側の事情からすれば、リノタホはWGCブリヂストン招待の裏試合であり、どうしても注目が下がりがち。何か集客効果の高そうな目玉が欲しかったわけだ。そこで浮かんだ名案が、失格騒ぎで注目されたウィーを招待してしまえという策。これではウィーは単なる人寄せパンダ以外のナニモノでもない。
まあ、百歩譲って、興行ビジネスのプロツアーゆえ、人寄せパンダを起用して何が悪いってことにするとしても、よりによって、現段階でウィーを招待するのは、彼女の将来をまったく考えていないに等しい行為だ。
ウィーが男子の試合に挑戦すること自体は素敵なことだと思う。けれど、過去において、彼女の無理が彼女を不調へ追い込んだことは記憶に新しい。不調の原因には手首の故障もあったが、「まず女子で勝ってから男子に挑戦せよ」という多くの批判は、いろんな意味で的を射ていた。せっかくプロゴルフ界から距離を置き、スタンフォードでの大学生活の中で立ち直り、やっと女子のプロの世界で復帰しようとしていた矢先だ。そこで再び話題性のために彼女を男子の試合に出すというのは、やっぱり彼女のことを人寄せパンダとしてしか扱っていないのではないだろうか。
ウィーが男子の試合に挑戦するのは、今回が14回目。米PGAツアーでは07年ソニーオープン以来、8回目。ずいぶんと大きな数字が並ぶが、一方で彼女は米LPGAの実に23試合でルール違反によるペナルティを食らっている。まだまだ今は「挑戦」より「経験と成熟」のとき。試合慣れは当然必要だが、それはやっぱり勝ち方に慣れる可能性の高い女子の試合で試合慣れを図るべきだ。
とはいえ、元々、男子への挑戦志向を抱くウィーが、いざ男子の試合から招待されれば、喉から手が出るほど出たいものゆえ、拒否はしないし、できないだろう。だから、男子の試合側が、しばらくはウィーを女子の世界に置いておく配慮が欲しいなあと思う。
2008年07月23日
全英オープン翌日の月曜日、英国マンチェスター空港から飛行機に乗ってNYへ戻った。ロイヤルバークデールはリバプール郊外だが、NYへ直行便で帰るには車で1時間ほど走ってマンチェスター空港を使ったほうが便利なのだ。日ごろ、米PGAツアーを取材しているアメリカ人メディアの大半はアメリカ国内の移動にデルタ航空を利用しており、彼らの多くはマイルを溜める関係もあって、イギリスとアメリカの往復にもやっぱりデルタ便を使う。私も同じ。そしてマンチェスターからアメリカへ戻る一番便利な便が、お昼ごろに出発するNY便。それゆえ、空港でも機内でも、米ツアー取材の顔見知りばかりが大集合になった。
そこで出た会話は「誰に勝って欲しかった?」ばかり。そして、常連メディアの多くが「上位の誰でも良かったよ。ノーマン以外なら」だった。
これを聞いて「うーん、やっぱりねえ」と思ったのは私だけではなかったはず。そして私も、心の底ではノーマン優勝を望んではいなかった。

(現実的に考えると、ノーマンの優勝の可能性は低かった)
なぜか。ノーマンの全盛期に取材をしていた古顔にとって、彼は決して「好きな選手」ではなかったからだ。記者は何度も何度もコメントを拒否され、カメラマンは何度も何度も撮影を拒否された経験があった。外国人の私ですら、そんな経験が何度もあったのだから、アメリカ人メディアには何百回もそんな経験があったはず。だから、あの尊大なノーマンにあんまり勝ってほしくないというのは、あまり公けにはできない感情だが、かつてのノーマンを知る者にとっては、当然といえば当然、抱いていた感情なのだ。そういえば、いつも米ツアーの記者会見で積極的に質問をするベテランのアメリカ人記者が、今回の全英でのノーマンの会見では、つまらなそうにアクビばかりしていた。彼などはノーマン嫌いの筆頭なのかもしれない。
まあ、そうしたメディアの感情はさておき、ノーマンに優勝してほしくなかった理由は他にもある。1つは、彼が優勝し、クリス・エバートとの結婚で心身ともにパワーアップしたことばかりが勝因に挙げられてしまうのが嫌だった。エバート効果は確かにあったとは思うけれど、「愛の力で全英優勝」となるのは、何かの苦しみに耐えながらもがんばっている選手たちにとって、なにやら気の毒だからだ。
それと、もう1つ。いくらノーマンが「53歳にしては心身ともに若々しい」とはいえ、タイガー不在の全英でシニアが優勝したのでは、タイガー以外の他選手が本当に不甲斐ないような形になってしまう。まるで、今の日本ツアーが「石川遼以外にスターはいない」と言われているのと同様に「世界のゴルフツアーにはタイガー以外にまともな選手がいない」なんて言われかねない事態が起こる。
とはいえ、本当にノーマンが優勝し、そんな説が浮上してしまったら、それはそれで仕方のないことだったのかもしれないし、それが事実と言われても反論しようがなくなってしまう。だから、そうなってほしくない、だからノーマンではない他の選手に優勝してほしいと、私はそう思っていた。

(リンクスの王者?地元欧州の強み?2連覇は立派!)
で、ノーマン以外なら誰に勝ってほしかったか。常連メディアの中で一番多かった意見は、実際に優勝したパドレイグ・ハリントン。彼は昨年の全英の開幕前、「ナイスガイが勝つ」と語り、自分が勝ってしまったので照れ笑いしたのだが、今年もまた優勝。あまりにもナイスガイなので、2連覇までしてしまった?
イアン・ポールターという意見も、そこそこ多かった。自分の主張をしっかり持っている選手は、米メディアには、そこそこ人気がある。しかし、主張が奇妙な方向へ出てしまうセルジオ・ガルシアは、事前予想では名前が挙がっていても、優勝してほしいと思っていたという意見は皆無。ガルシアの日ごろの態度は、どことなく全盛期のノーマンと通じるものがある。もちろん、ガルシアの戦績は全盛期のノーマンの足元にも及ばないのだが、ガルシアの尊大な態度だけは全盛期のノーマンに似ている。だから、メディアからの嫌われ方も、どこか似ているのだろう。
こんなことを考えながら飛行機に乗っていたら、疲労のせいか熟睡。あっという間にNYに到着した。振り返れば、なかなか楽しい全英オープンだった。タイガーがいなくても、いやタイガーがいなかったからこそ、いろいろな選手を深く観察し、取材することができた。普段なら大会後の会話は「タイガーが勝った」「タイガーが勝てなかった」に終始するのに、今回はタイガーの「タ」の字も出ず、いろんな選手の名前が挙がった。だから楽しかったような気がしてならない。たまには王者不在もいいもんだ。

(正直、この人に勝って欲しかった気持ちはある)
Photo/JJ Tanabe
2008年07月20日
全英オープンは2日目が終わるまで、なにやら不思議な状態だった。「どうして、この人が?」と首をかしげてしまうような面々がリーダーボードに顔を出していたからだ。しかも、彼らの多くが全英チャンプだったため、あまりにも不思議なこの現象は、きっとロイヤルバークデールに棲む神様の仕業だと思うしかなかった。
その筆頭がグレッグ・ノーマン。さらには、ジャン・バンデベルデにデビッド・デュバル。彼らはみな現役を退いたか、あるいは不調から抜け出せずに終わるかのどちらかだと思われていた面々だ。パドレイグ・ハリントンは昨年の全英チャンプゆえ、今年も再び上位に来ても別段、不思議ではないが、ハリントン以外のこうした選手たちの浮上は、どう考えても納得がいかず、普通ではなかった。

(バン・デ・ベルデの明るい性格は変わっていないようだ)
で、3日目の今日。バンデベルデやデュバルはすでに神に見放されたらしく、大きく崩れて後退した。だが、ノーマンだけは後退するどころか、KJチョイを抜いて単独首位へ。これはもう、ロイヤルバークデールの神だけの仕業ではない。だとすると、他にはどんな神がいる?すぐに思いつくのは「女神」。53歳のノーマンをここまで頑張らせているのは、おそらくは新妻クリス・エバートという名の「女神」だ。
だが、明日の最終日は、やっぱり勝利の女神に味方してもらわなきゃ勝てない。いや、勝利をもたらしてくれるなら、この際、神の性別を問わず、いっそのこと「勝利の男神」でもいいではないかと、ふと思った。

(残念ながら3日目の今日、83と大崩れしてしまったデュバル)
ノーマンにとっての「勝利の男神」となれる可能性を秘めているのは、バッグを担ぐキャディのリン。リンはノーマンの全盛期の80年代にキャディを務めていた男だ。すでに58歳で、ノーマンより年上だ。ノーマンのバッグを担いでいないときは、ベン・クレンショーのキャディも務めていた大ベテラン。ノーマンの過去の全英2勝のときは、リンはキャディではなかったけれど、だからこそ今回は53歳のノーマンと58歳のリンの「オールドコンビ」が不思議な力を発揮しているのかもしれない。
さてさて、明日の最終日はどうなるか。オールドコンビに勝ってほしいと思う反面、そうは問屋が卸さないとも思える。ノーマン自身、「勝ちたいという気持ちはもちろんあるが、その気持ちを受け止められるだけの肉体はもう私にはない。だから自分に対する期待は低い。最終日は、これまでの3日間と同じような気持ちとルーティーンで臨むだけだ」。
だが、それが一番大事なことで、それが一番難しいことなのかもしれない。そうしたくてもそうできず、期待が重圧になって崩れるというのが、メジャー最終日によく起こる現象だ。しかし、53歳になったノーマンだったら、それができるかもしれない。若いころのノーマンにはできなかったことが、今更できたら、それはそれで素敵な53歳の勝利ということになる。
そんな美しいストーリーを実現させてくれるかどうかは「ロイヤルバークデールの神」と「クリス・エバート女神」と「リンという男神」のさじ加減次第?3人の神様は、明日、風に乗ってやってくるのか、それとも雨に混じって天から降りてくるのか。タイガー不在のメジャーをこんな形でエキサイティングにするなんて、ゴルフの神様は本当に気が利いているなと思う。

(右がキャディのリン。このペアで奇跡が起きるか!?)
Photo/JJ Tanabe
2008年07月17日
今日は全英オープンの練習日。大会初出場で、ついでにイギリスに足を踏み入れたのも初めての今田竜二に会った途端、彼の挨拶は「ああ、明けましておめでとうございます」。えっ?何、それ?今田はときどき、こんなおとぼけ調で挨拶したりするのだが、いきなり「明けまして……」と来たのは、それだけ「気持ちも新た」な証拠???
とはいえ、やっぱりいろんなシチュエーションでゴルフをやってきただけのことはあるなあと感心させられたのは、彼がこの数日間、ロイヤルバークデールを3.5ラウンド回った上で掴んでいる感触だ。初出場の日本人選手の感想は、これまでの全英でも今回の全英でも「わけわからん!」みたいな感想ばかりなのだが、今田の場合は、どんな球でどう攻めるか、注意すべきポイントは何か、どのあたりのホールをどうやって攻めてどこでスコアを作るのか……そういったことを着実に掴んでいた。
この差はどこから来るか。やっぱり、適応能力の差だろう。何もかもが初めての日本人は大抵の場合、コースというものが見えないもののようで、ただただ無我夢中で目の前の球を打つことに終始してしまう。でも、今田のように、ティーンエイジャーのころからアメリカにひょこっとやってきて、ジュニア、カレッジ、二軍、そしてPGAツアーという具合に様々な状況に自力で対処してきた選手は、初めての状況であっても、それなりに見るべきポイントというものをわきまえている。

(今回の谷口が今田に練習ラウンドを熱望。成果は本戦で発揮されるか?)
ゴルフに限らず何においても、概して日本人は「初」「異」に弱い。おしなべて一様であること、平均点であることを「良」とする日ごろからの日本人気質が、ゴルフの「メジャー初出場」「全英初出場」なんてところでもマイナスに働くものなんだなあと、そんなことを考えさせられてしまった。もちろん、だからと言って今田が日本人っぽくないという意味ではないので、お間違えのないように!
さて、その今田が掴んだものの内容については、後日、雑誌等々に書くので、ここでは詳細は控えたいのだが、一つだけ披露するとすれば、「結局、ここではパーを積み重ねていくゴルフになるので、そういう意味ではUSオープンに似てる」という点。アメリカとイギリスでは、コース形状の違い、強風などの天候の違いから、前者は「上げるゴルフ」、後者は「転がすゴルフ」という具合に、プレースタイルは大きく異なる。だが、最終的に目指すものは、バーディ狙いではなくパー拾い。詰まるところ「パー合戦」というのが、やっぱりゴルフの基本なのだろう。
今日の練習ラウンドでは、全米オープンの「続き」ということで、またまた「今田vs谷口徹」のバトルが繰り広げられていた。「どっちが勝ったの?」と尋ねると、「引き分けでした。でも、15番の近くで谷口さんにハンバーガーをおごってもらったので、ま、いいか」。見ている限り、この2人のバトルは、谷口が一方的に今田に惚れちゃってるからやってますという感じ。全米オープンではラフからでもどこからでもパーを取る今田に谷口が「こっちがフェアウエイにいるのがアホらしくなる」と驚嘆の声を挙げ、今回は今田のティアップの高さを見て「こーんなに低い!」と、またまた谷口が今田の「ワザ」に驚嘆。そんな谷口の声を周囲から聞かされて今田はニヤニヤ。うーん、この2人のバトルは、なかなか微笑ましい。
それはそうと、練習場で面白い光景を見かけた。ロープ内の場所なのに、なぜかギャラリーが何十人も入り込んで次々に選手にサインをねだっていたのだ。彼らはどうして入れちゃうんだろうと不思議に思っていたら、そのうちに子供たちが練習ボールをくすねて走り去っていき始めた。近年のトーナメント会場で、子供たちが練習ボール泥棒しているシーンなんぞは見たことがない。こりゃ大変だと心配し始めたところでセキュリティがやってきて、「はいはい、みんな出なさい!ダメだよ!」。
なんとなく緊張感がないのは、タイガー・ウッズが居ないからだろうか。練習日にインタビュールームに呼ばれた選手たちの大半は「今回はタイガーがいないんだけど……」という質問をぶつけられ、うんざりしている様子。「タイガー不在のメジャー」は、いろんな意味で、いろんなところに影響を与えているようだ。

(警備員が注意に入ったすぐ後ろから、半ズボンの少年がボールをくすねている!)
Photo/JJ Tanabe
2008年07月10日
日本では、この秋の国会でタバコ1000円法案が通るとか通らないとか、そんな話が聞こえてくる。さすがに1000円になったらやめようかなあなんて声も身近で聞いたりする。ただ、不思議なのは、「日本も欧米並みに1000円ぐらいに値上げする」という政治家だか誰かの言葉。「欧米並み」というけれど、少なくともアメリカで1箱1000円は実際には見当たらないからだ。アメリカは州によってタバコの値段が異なり、最も高いのは私が住むNY。それでも1箱8~9ドル。レートにもよるが、これがやっと1000円ぐらい。その他の州となると、たとえばフロリダなんかでは1箱3ドルちょっとしかしない。つまり、「欧米並み」にではなく、正しくは「NY並み」ではないだろうか?
で、どうしてタバコの話なんぞで始めたかというと、米PGAツアーの会場でも、スモーカーの肩身がどんどん狭くなっていることを、ひしひしと感じる昨今だからである。一昔前のツアー会場には、それはそれはスモーカーが大勢いた。ニック・プライスやら丸山茂樹やらジョン・デーリーやら、とにかくあちらこちらで煙がモクモク上がっていた。
しかし、最近では、タバコをくわえた選手がほとんど見当たらない。今でも吸っているのは、思い当たるところでは、ティム・ヘロン、トミー・アーマー、フランク・リクライター……うーん、あとは誰だったか??
そういえば、今年の春ごろ、ツアーの何かのミーティングで「会場内を禁煙にしよう」という案が出たそうだ。しかし、ティム・フィンチェム会長は「今どき、タバコを吸っているアスリートなんて、もう皆無に近いのだから、わざわざ禁煙なんてキマリを作って発表するエネルギーを使う必要もない」と言って切り捨てた。だから、ツアー会場は、今でも禁煙にはなっていない。
だが、これには「裏」があるのだと思う。会長がそんなふうに切り捨てたのは、実際はスモーカー選手の権利を一応、尊重するためとも考えられるのだ。

(ハマキ愛好家のヒメネスに禁煙は酷?)
今年の全米オープンはトーリーパインズで開催されたが、あのコースは市営ということで、敷地内全面禁煙なのだ。それゆえ、全米オープン期間中も、敷地内全面禁煙とされる予定だった。ところが、文句をつけたスモーカー選手が何人かいたらしい。わかっているのは、ミゲル・アンヘル・ヒメネス。彼はタバコではなく葉巻をこよなく愛しており、「普段、吸っている選手が、開催コースのキマリだからといってメジャーで突然吸うことを禁じられたら、普段とは異なる集中力、精神状態、肉体状態でのプレーを強いられることになる。だからアンフェア」といったような主張をしたらしいのである。
結局、大会期間中、「インサイドロープは喫煙OK」ということになった。つまり、ロープ内であればタバコや葉巻を吸ってもOK。となると、許されるのは、選手、キャディ、オフィシャル、メディア、ポリスやセキュリティガード。ロープ外のギャラリーは禁煙だった。
まあ、実際は、ロープ外のギャラリーも吸っていたし、メディアやポリスもロープ内OKと言われてもさすがにフェアウエイ近くでスパスパやるわけにはいかないよってことで、ロープ外でこそこそ吸ったわけだ。
こんな裏話はさておき、アスリートとタバコ、ゴルファーとタバコ、難しい問題だ。もちろん嫌煙主義者から見れば、タバコなんてとんでもないというだけの話。しかし、タバコでストレスを解消する人、タバコで落ち着く人も世の中にはいるのだ。それがプロゴルファーだったら、一概に「禁煙」を押し付けるのは、やっぱり酷だろう。
……ってなことを考えて、フィンチェム会長は「いまさら、いいよ」と、うまく切り捨てて見せたのだろう。なかなか、粋なはからいだと思うのは、私だけ???

(ティグランドの横のクーラーボックスに『喫煙エリア』のサインが!)
Photo/JJ Tanabe
2008年07月07日
「タイガーのトーナメント」AT&Tナショナルを制したのは、23歳のアンソニー・キムだった。タイガーのいないタイガーのトーナメントは、やっぱりどこか淋しかったが、訪れたメディアの期待は、私も含めて、「表彰式にだけはタイガーが姿を現すかも」というものだった。タイガーが現れないとしても、せめて表彰式でタイガー人形とか、着ぐるみとか、タイガーからのメッセージとか、そんな「something」が起こること。しかし、実際は何も起こらず、集まったメディアは口々に「オー・マイ・ゴッド!」
そして、表彰式を撮るカメラマンたちは、トロフィーを抱いたキムに、せめてグッドなポーズを取らせようということで「高々とトロフィーを持ち上げてくれ!」。しかし、キムは「これ、重いんだよ。だから上には持ち上げないよ」と、ついつい本音。けれど、2勝目を挙げたうれしさが、結局はキムにトロフィーを頭上まで持ち上げさせた。

「重くって持ち上げられないよ~!」(ホンモノのトロフィーは、マジ、重いんです)
優勝トロフィーを眺めながら思い出したのは、つい先日、今田竜二と夕食を食べていたときの彼の一言。雑誌をペラペラとめくっていた今田は、優勝トロフィーを掲げた選手たちがたくさん載っている広告ページを発見し、「みんなのトロフィーはゴージャスでいいなあ」。これまた今田の本音だ。
今田が勝ち取った初優勝のトロフィーは、ブロンズ製でクラブをグリップしている手が象ってある。だが、今田いわく、クリスタル製やシルバー製の「ピカピカのほうがゴージャスに見える」。しかも、表彰式で掲げるトロフィーは大会側に返還しなければならず、本人には後日、同型のレプリカが送られるのだが、「でも、送ってきたのは本物より小さいんですよ」。
おいおい、小さくても、ピカピカ光ってなくても、いいじゃないの!トロフィーはトロフィー。優勝は優勝。竜二くんだけのものなんだから(笑)。
なんてことを考えながら、表彰式の18番グリーンを離れ、メディアセンターに戻ろうと、トボトボ歩き出したところ、リックを発見。リックとは、かつて田中秀道のキャディをしていたリック・アドコックのこと。現在はトム・パーニスのキャディをやっているのだが、実はリックはパーニスと、あんまり仲が良くはない。それでも、仕事は仕事ということで、ちゃんとオツトメしている。

(ホールアウト後、どうも表情が冴えないのは、ボスへの不満?イチバン左がリック)
Photo/JJ Tanabe
リックは立ったまま、電卓で何かを計算し、メモっていた。「何を計算しているの?まさか、今週の自分の儲けじゃないよね?」と冗談で尋ねたら、「その通り。まったくなあ、ダボを2つも叩いちゃうから、減っちゃったよなあ……」。
おいおい、あなたのボスは最終組で回り、優勝争いもしていたんでしょう?しかも、試合はたった今、終わったばかりだというのに、もうギャラの計算?……と思ったのだが、これもキャディの本音なのだと割り切るべきだろう。稼ぎは稼ぎ。賞金に比例して稼ぎが増えるわけだから、稼ぎを直接減らしてしまうボスのボギーやダボは、ときには本音で愚痴りたくなるのだろう。うんうん、わかる、わかる。
ということで、選手やキャディの本音は、こんなふうにして、きわめて偶発的に、耳にしたり、目にしたり、するものです。はい。
2008年07月04日
今週はAT&Tナショナル。タイガー・ウッズのトーナメントとして昨年始まった大会なのだが、2年目の今回、会場にタイガーの姿はもちろんない。大会前の電話会見では「とても残念だけど、会場に行くことはできない」と語っていた。そりゃ、そうだろう。手術直後だし、長期安静が必要の身なのだ。しかし、なんとなく、表彰式あたりに、ひょっこり現れそうな気がしてしまう。

(優勝トロフィーは国会議事堂を象っている)
それはそうと、タイガー不在でも、会場にはタイガーらしさが溢れている。グローバルな感覚を持つタイガーの意向と、独立記念日ウィークの開催であること、ワシントンDC近郊であること等々の条件があいまって、なんともこの大会は国際色が豊かだ。
ユニークなのは、キャディたちのビブに、選手の出身国の国旗が付けられていること。今田竜二のキャディのケイシーのビブには日の丸。ケイシーに「この旗、何て呼ぶか知ってる?」と尋ねてみたら「What?」
で、「ヒノマルだよ。ヒ・ノ・マル。マルは丸山のマル」と教えてみた。すると、すらすらと「オー、OK!」の次に「ヒノマル」と言えた。だが、どことなく「ヘノマル」にも聞こえた。

さて、その「マル」、つまり丸山茂樹のゴルフを見たのは、結構、久しぶりだった。私の動きが男女のメジャーで手一杯だったこと、最近の丸山が男子のビッグ大会の出場資格を有さなかったこともあり、なかなか会えなかったのだ。で、久しぶりの丸山を眺めたわけだ。出だしから、相変らずドライバーショットは曲がりまくっていたけれど、大きく曲げたときでも、木々の間を抜いていくリカバリーショットには、依然と変わらぬ巧さがちゃんと残っていた。
4番ホールのリカバリーショットの直後。周囲で眺めていたギャラリーのアメリカ人のおじさんたちが、思わず「アッハッハッ」と笑っていた。この笑い、実は重要な意味を持つ。たとえば、タイガーのようなパワフルなリカバリーショットの後は、人々は「ウォーッ!」と狂喜の声を上げる。しかし、丸山のような熟達した技を見せられると、人々は「ウォーッ!」とは叫ばず、「アッハッハッ。こりゃすげえや。いやあ、俺たちには絶対にまねできないな。まったくの降参だ。いやいや、さすがプロ、参りました」という気持ちでいっぱいになり、なぜだか「アッハッハッ」と笑うのである。
ギャラリーのこんな笑いを誘える選手は、米ツアーでも、さほど多くはない。その1人が丸山。そして、もう1人が今田であることは、私も同じ日本人として、うれしいことだ。
しかし……その後、丸山はボギー、ダブルボギーを喫し、そこからバーディも奪い返したというのに、11番でダブルボギー。その直後、手首痛を理由に棄権してしまった。本当に痛かったのか、それとも戦意を失ったのか。それは本人にしかわからない。駐車場まで追いかけて声をかけたが、答えは返ってこなかった……。
そして今田はというと、こっちも大きく出遅れた。全米オープン以来、2週間ぶりの試合出場だ。
舩越「2週間のブランクは試合勘に影響しているの?」
今田「ええ。僕は2週間空いちゃうとダメなんです」
舩越「だったら、空けなきゃいいじゃない?」
今田「いや、空けたくなくても空けなきゃいけないんです!」
なんだか漫才トークのようだが、体を休めるためにも、時々、2週間ぐらいは休まなきゃならないんだということらしい。よくよく考えてみると、棄権を決めたときの丸山と、そのときプレー中だった今田は同じ4オーバーのスコアだった。丸山は棄権してしまい、今田は92位と出遅れながらも、明日への希望をつなげている。
止めてしまったら明日はない。丸山には、もう少し踏ん張ってほしかった。だが、もう会場に丸山の姿はない。その意味は、タイガーの姿がないというのとは、全然違うところが、なんとも悲しい。

(苦境を乗り越えるのもプロの能力。来週の試合から力いっぱい臨んでほしい)
Photo/JJ Tanabe