2008年08月30日
すでに通信社を通じて報道されたことなので、ご存知の方もいると思うが、米LPGAが外国人選手に対し、英語能力を試し、一定基準に満たない場合は選手としてのメンバーシップを停止する=出場停止という強硬姿勢を打ち出した。対象となるのはツアー在籍2年以上の外国人選手。実質的には09年のシーズンエンドからのスタートだという。
この強攻策、一長一短の感がなきにしもあらず。キャロリン・ビーベンスLPGA会長のスタンスは「プロゴルフ=エンタテイメントビジネス」だ。それゆえ、ただゴルフが上手い、強いというだけでは選手としては不十分。たとえば、プロアマなんかでも、外国人選手の英語力不足のためにアマチュアとコミュニケーションの一つも取れないようでは話にならないということなのだ。
もちろん、プロアマはツアーを経済的に有利に運営していく上では重要な役割を担っている。スポンサーをつける上でも大きな意味合いがある。ギャラリーとして会場を訪れるファンたちとのちょっとした触れ合いだって、ツアー人気、選手人気を左右する。だから、エンタテイナーとしては、流暢じゃなくてもいいから、せめて最低限の交流ができるぐらいの英語力は不可欠。それが不足している選手は、エンタテイメントビジネスの担い手としては欠格だ、ということなのだ。

(全米女子オープン優勝のインビー・パクの英語力は問題ナシ)
だが、外国人選手の側からしてみれば、反論もある。幼いころから米ツアーデビューを夢見てゴルフばかりを必死にやってきて、やっとのことで辿りついた米ツアーで、ゴルフの実力は十分にあるのに英語力不足でツアーを追い出されるなんて……ということにもなる。「私たちはプロゴルファーだ。アスリートだ。エンタテイナーじゃない」と叫びたくなる選手だって絶対にいるはずだ。
そう考えると、今回の強攻策は、いいんだか、悪いんだか。即答はできない難問だ。
で、実際に英語がわからなかった外国人選手が米ツアーで英語を身に付けるのはどのぐらい大変なのか、無理なのか、どうなのかという現実へ目を向けてみると、こんな答えが浮かび上がる。それは、ゴルフの実力があって、米ツアーでやっていくんだという気概がありそうな外国人選手ほど、英語を身につける速度も速いということ。宮里藍も1年目から自力で英語でインタビューに答え始めたし、今年の全英女子オープンを制した韓国の申智愛は、まだ米LPGAメンバーになってもいないのに、この1年ですっかり英語がしゃべれるようになっている。
結局、ゴルフも英語も、やる気の問題なのかなと思えなくもない。しっかりとした目的意識を抱いている選手は、ゴルフのプレーのみならず、ゴルフの周辺のモノゴトに対しても自ずとやる気が出るもののようだ。それに、プレー中だって、英語が皆目わからないより、ある程度、わかったほうが、ルール委員を呼ぶときだって、同組の選手やキャディの会話を小耳にはさんだときだって、何かと便利だし、安心もできる。いつまでも外国ツアーにいるというフワフワした意識でプレーするより、言葉も習慣もわかるという安心感、ホーム感を抱きながらプレーするほうが、きっといいプレーができるだろう、とは思う。
もしも、米LPGAが一方的に「英語、英語!」と押し付けているのなら、それはあまりにも無理強いだが、ツアー側は昨年から外国人の英語教育のためのテュータリングシステムなるネット教材も提供し始め、ツアー側だって単なるゴルフツアー運営の枠を超えたアシストもしているのだから、外国人選手側もそれなりの努力をするべきなのかもしれない。
ただ、1つだけひっかかるのは、英語力テスト開始という今回の新たな施策を、先日の韓国人選手ミーティングで発表したことだ。外国人選手を集めたミーティングで発表すべきではなかったのか?そりゃあ、外国人選手の中で韓国人は最大勢力を誇るわけだから、彼女たちの集まりで発表するのは手っ取り早いわけだが、やっぱり、ツアーとしての施策の発表なのだから、韓国人対策ではなく外国人対策であるというケジメはきっちりつけていただきたいものだ。
ともあれ、英語がほとんどわからない韓国人選手たちは、今ごろ真っ青だろう。今回の施策、頭では納得。心では少しだけ可愛そう。英語必須は理解できるけれど、出場停止は少しやりすぎでは?そう思ってしまうのは、同じ外国人として、贔屓目すぎるのだろうか?

(全英女子オープン、表彰式の前に英語の挨拶を紙に書いて必死に覚える申智愛。すでにそれなりの英会話力を身につけている)
Photo/JJ Tanabe
2008年08月25日
米PGAツアーのプレーオフ第1戦バークレーズは2ホールに及んだサドンデスプレーオフの末、ビジェイ・シンの優勝で幕を閉じた。
それはそうと、今、とても気がかりなのは、あの丸山茂樹がアメリカから消えてしまったという事実だ。今季の成績が散々で、18試合中、予選落ちが4回、途中棄権が5回、賞金ランクもフェデックスカップランクも200位に近い丸山が、やる気を失くした表情と態度を見せていたことは、以前にも書いた。7月のUSバンク選手権inミルウォーキーが終わったら日本に帰ると本人が漏らしているという話は、6月ごろから方々で耳にはしていた。コトの真偽を確かめようと試みたAT&Tナショナルでは、やはり途中棄権してしまい、駐車場まで追いかけたものの無言で去ってしまった。

(7月のUSバンク選手権を最後に試合会場から姿が消えた)
そして7月。私は全英オープン取材に行っていたのだが、その同週に裏で開催されたミルウォーキーに丸山は過去の優勝者資格で出場。予選通過を果たしたにも関わらず、棄権してしまい、その後、ツアーから姿を消してしまったのだ。
いろいろ調べてみたら、ミルウォーキーを棄権した後、アメリカで雇っていたマネージャーやキャディにも突然の解雇通告を言い渡していたことが判明。そして、丸山は日本へ帰ったことが彼のHPに「スタッフからの報告」として、ちらっと書かれていた。あくまでも、リフレッシュのためだ、と。
だが、おそらく今季残りは、日本ツアーに出場するのだろうと思われる。日本で3試合以上出場しなければ、日本でのシードが維持できないわけだし、すでに現地マネージャーまで解雇したわけだから、米ツアー参戦体勢を解除したと見るのが妥当だろう。
しかし、一旦アメリカから引き揚げるなら引き揚げるで、そういう発表をきちんとしてほしかった。知らぬ間に消えたとあっては、長年、アメリカで丸山を応援してきた大勢のファンだって、まるで裏切られたような気持ちになってしまう。私だって、そうだ。今季の米ツアーのフォールシリーズで、昨年のように大逆転シード獲得をしてほしいと願っていたファンはたくさんいる。そのために丸山を応援しに行こうと計画していたファンだっている。そうしたファンは、いまだに丸山が日本へ引き揚げたことすら知らず、「マルちゃん、逆転できるかな。シード維持できるかな」と、心配までしているのだ。アメリカにいるそうしたファンの気持ちを無にしてはいけないだろう。
今回の撤退は、アメリカからの完全撤退なのか。それすら、わからない。もちろん、本人にもまだ決断できないことなのかもしれないが、それならそれで、その胸の内をきちんとファンに伝えるべきだ。成績が振るわなくても、丸山は丸山。日本人が誰一人成し得ていない米ツアー3勝をやってのけたマルちゃんが、黙って消えたなんて、情けない。少なくとも私は今、そんな気持ちでいっぱいだ。
できることなら、今季終盤のフォールシリーズに戻ってきてほしい。できることなら、来年も米ツアーで出られる限りの試合に出場し、再びシード奪還を試みてほしい。それらがどうしてもできない心情なのだとすれば、せめて胸の内をさらけ出し、今後の方針を語ってほしい。それは、スター丸山の義務だと思う。

(再び“Shigeki”の雄姿をアメリカで見ることはできるのだろうか)
Photo/JJ Tanabe @ AT&Tナショナル
2008年08月23日
今田竜二の調子が上がらない。プレーオフ第1戦となった今週のバークレーズも、ぶっちぎりで予選落ちとなってしまった。みなさんも、ご心配のようで、友人知人からも「今田くんは、どうしちゃったの?」なんてメールが次々に来ている。
だが、今田の最近の成績は、まあ、予想できていたといえば、できていた。そして今田本人も、もちろんがんばろうとは思っていたのだろうけれど、でも、たぶん今週はダメだろうと、秘かに思っていたのだ。
なぜか?それは今が8月だから。

(不調の原因は、本人いわく「8月だから」)
どういう意味だと思うだろうけれど、今田にとって8月は鬼門とでも言ったらいいのか、毎年、本当に「ダメ月間」となってきたのだ。実際、今年は3試合中2試合で予選落ち。去年は3試合すべて予選落ち。06年は2試合に出て予選はなんとか通ったが、70位と53位という振るわない成績で終わった。デビュー年の05年は、2試合で両方予選落ち。ゴルフの成績のみならず、ケガや病気も8月に起こってきた。ネイションワイド時代もそうだったし、昨年の8月にはラウンド中に体中が震えて痛みも走り、最後には救急車で病院へ運ばれたなんてことまであった。
ここまで来ると、鬼門というより、8月の怪奇現象と呼んだほうが良さそうだ……と書いてしまうと、「8月はダメだ、と思い込んでいるから本当にダメなんだ」なんてお叱りの言葉も出てくるだろう。メンタル面が後ろ向きだから自ら「ダメ」を呼び込んでしまっているという見方ももちろんできるし、実際、そうなのかもしれない。
しかし、もう夏は終わりなのだから、こうなったら不調の原因をすべて8月のせいにしてしまえという、いい意味での開き直りをすることもできるわけで、現在の今田は、来週からはがんばるぞ、という気概で燃えている。元々、今田は精神的な切り替えが上手いほうの選手ゆえ、来週からは、きっと何事もなかったかのように、突然、ブレークし始めるのではないかと、今はそう思うことにしよう。

(昨年は8月が終わったとたんにドイツバンク選手権で17位タイ)
思えば、今田の成績上の不調は、全米オープンの後、2週間のオフを経て出場したAT&Tナショナルあたりから始まっていた。あのころはショットが不調だったが、今週はパットが不調だった。しかし、振るわないものが、ドライバーだったりパターだったりという具合にコロコロ変わるのは、どちらも深刻な不調ではないと考えることもできる。きっと、そう。彼の場合、深刻なのは「8月」だけだ。
今週のプレーオフ第1戦は予選落ちしてしまったが、来週の第2戦でがんばれば、まだまだ彼にはフェデックスカップチャンピオンになってボーナスの10ミリオンを手に入れるチャンスは十分に残されている。10ミリオンを手に入れたら「もう、辞めます。引退します」なんてジョークまで言っていたけれど、今田は秘かに10ミリオンを手に入れてやろうという闘志を抱いているはず。今田とは、そういう男。
だから、みなさん、「今田は不調なの?」と、あんまり心配せず、来週からの竜二くんを応援してあげてください。とにかく、8月さえ終われば……。
あれっ?ここまで書いて、カレンダーをよくよく眺めたら、来週の第2戦も、まだ8月だ!怪奇現象、少し早めにおさまってくれたらいいのだけれど……。

(今週も練習日にはパット練習を何時間も続けてました)
Photo/ JJ Tanabe
2008年08月20日
米PGAツアーは今週から、いよいよフェデックスカップのプレーオフシリーズが始まる。第1戦のバークレーズ会場となるリッジウッドCCはNYのマンハッタンから小1時間のドライブでアクセス可能ゆえ、選手や関係者の中にはマンハッタンから毎日通うなんて人もちらほら。
選手たちが乗るオフィシャルカーは、今週はBMWの提供車。選手用駐車場にはBMWのSUVがずらりと勢ぞろいしており、なかなか壮観だ。

(オフィシャルカーに群がる男たちを発見)
だが、もっと壮観だったのは、そのオフィシャルカーを朝から磨き上げる男たちが勢ぞろいしていたこと。まるで腕っ節自慢みたいなお兄ちゃんたちが数人がかりで車を洗い、磨いていた。
オフィシャルカーを提供するサービスそのものは、米PGAツアーでは、もはや当たり前。だが、そのオフィシャルカーを磨くなんてサービスは、これまで見たことも聞いたこともない。これは、やっぱり10ミリオンという破格のボーナスがかかるフェデックスカップならではのスペシャルサービス?さすが、ドキドキ感満点のプレーオフだ!
……と思ったのだが、車を磨く1人のお兄ちゃんに尋ねたところ、「オレたちはPGAツアーじゃなくてリッジウッドGCに雇われてるんだ。毎朝、こうやってオフィシャルカーを磨くんだ」。えっ?ということは、プレーオフシリーズ向けのサービスではないってことだろうか?

(大人数で一気に磨き上げる)
なーんだ。と、一度はがっかりしたのだが、もう1度、よくよくツアー側に確認したところ、お兄ちゃんの答えが正しくなかったことが判明した。
米PGAツアーいわく、「プレーオフシリーズの4試合とも、オフィシャルカーはBMW。で、車を磨くサービスは今年から始まったニューサービスだ」。で、彼らを誰が雇ったのか?「それはBMWだ」。つまり、BMWからPGAツアーへのサービス?「いいや。あのサービスは車を使う選手たちのため、あるいはツアーのためのサービスではなく、BMWによるBMWのためのサービス。要するに、選手が乗り回して街中でもちょっと目立つはずのBMW車が、よりよく見えるようにするための策だ」。
うーん。なーるほど。しかし、自分が乗る車が毎日きれいなら、最終的には選手たちも喜ぶはずだから、やっぱり究極は選手のためのサービス?「まあ、そうとも言う。ツアーと選手とスポンサーは、いずれにしても持ちつ持たれつだからね」。
持ちつ持たれつ。そんな均衡が取れているところが、さすが、世界一のツアーなのだろう。

(強ければ、至れり尽くせりのサービスがあるのがPGAツアー。うらやましい)
Photo/JJ Tanabe
2008年08月16日
全米プロが終わり、NYへ戻った。先日紹介した学生君も一緒にNYまでやってきて、数日間、仕事ぶりを見学したり、ついでにNY観光にもちゃっかり出かけ、そして昨日、日本へ帰っていった。
学生君との最後の晩餐を、私がよく行くマンハッタンのしゃぶしゃぶ屋さんで開いた。「開いた」と言っても、私と相棒カメラマンの田辺と学生君の3人だけだが、全米プロを振り返りながらのひと時は、なかなか楽しいものだった。
そのしゃぶしゃぶ屋さん。オーナーシェフから店員さんにいたるまで、大のゴルフ好きがいっぱい。店に入った途端、顔なじみのトムさん(日本人)と、こんな会話になった。
トム「いやあー、園子さん、お疲れ様。今年もやっと終わったね」
私「あ、いえいえ、シーズンはまだ終わってないけど」
トム「あ、そうか。でも、いやー、良かったね、やっと全部終わったじゃない」
私「いやいや、だから、メジャーは終わったけど、シーズンはまだですって!」
トム「あ、そうか。でも、いやー、面白かったね、PGA(チャンピオンシップ)」
私「うーん、そうですねえ。ハリントン、すごいですよねえ」
トム「オレはさあ、ガルシアは勝てないと思ったんだよ。相手がハリントンじゃさあ」
私「私も。ガルシアは、やっぱり勝てない顔してたから」
トム「そうなんだよね、アイツは、なんか悪い顔してるんだよ」
私「アッハッハッ。まあねえ。結局、思うんだけど、いい人か悪い人か、ってところかも?」
トム「そうなんだよなあ。ガルシアは悪がきっぽくて、あの無精ひげは年々濃くなって、
どう見てもメジャーチャンプにふさわしい顔じゃない。だけどさあ、一度だけ、アイツにも勝たせてやりたいんだよ、オレはさあ」
無精ひげが濃くなることと悪い人、悪い顔は、たぶん直接関係はないだろうけれど、「どうも勝てそうもない顔」というのは、あると思う。「悪い」と言っても、決して「悪人」という意味ではない。おそらく勝利を追求する上で必要な謙虚さ、冷静さ、そして、それらとは矛盾するかのごとく求められる勝利への意欲や渇望。要は、攻めと守り、両方のバランスが取れるか否か。とりわけメジャーでは、そのバランスが必須だ。そう考えたとき、ガルシアには今年もやっぱり、そのバランスが不足していたのだろう。

(今後も勝つチャンスはめぐってくるだろう)
それでも、昨年の全英オープンでハリントンに敗れたころと比べれば、ガルシアもずいぶん成長していたと思う。今回の全米プロで敗れた直後、TV用のインタビューエリアに現れたガルシアは、1分間ぐらい壁によりかかって茫然としていたが、インタビュアーが来てからは、きちんと対応していた。昨年の全英敗北直後に見せた悪態、続く全米プロで見せた悪態、その後の数々の悪態を思えば、悔しさの噛み締め方を身につけた今年のガルシアは、無精ひげが濃くなった分、大人になったのかもしれない。
しゃぶしゃぶ屋のトムさんとの会話で思い出したのだが、「いい人」というのは、昨年の全英オープン開幕前にハリントン自身が口にした言葉なのだ。
「(この全英は)ナイスガイが勝つ」
そう言って、自分が勝ってしまい、照れ笑いしたハリントンの顔が昨日のことのように思い出される。
このフレーズは、あまりにもドンピシャだったので、アメリカのみならず世界のメディアが記事に引用し、名フレーズと化した。
その後、ハリントンとじっくり話す機会を得て、「ナイスガイが勝つ」の本当の意味を教えてもらった。ハリントンいわく、「人柄がいい人が勝って人柄が悪い人は負けるという意味とは少し違うんだ」。全英開幕前、あるテレビ解説者が勝利に向かってカリカリしている選手たちや激しい筋トレ、厳しい練習を繰り返している選手たちを例に挙げ、「呑気そうに見える(ハリントンのような)選手が勝てるわけがない」とコメント。それに対してハリントンが「見てくれは呑気そうなヤツだって(秘めた戦意があれば)勝てる。ポヨンとしたナイスガイだって、勝てるさ」と反論。その最後の部分が「ナイスガイが勝つ」というフレーズとなって、彼の優勝後、一人歩きをしてしまったのだそうだ。
まあ、コメントの一部分が独立して歩き出すことは、よくある話。ハリントンの当初の意図とは若干異なるにせよ、私はこの「ナイスガイが勝つ」は、永遠のフレーズだと思う。

(ナイスガイだから、もうメジャー3勝?)
ゴルフは最後は心だ。ナイスな心を抱くナイスガイが、最後に勝利を掴む。そうあってほしいではないか。謙虚に自分を見つめ、人知れず努力を積み重ねた選手に勝ってほしいと思うのは、日本的美徳感なのかもしれないけれど、やっぱり私は、ナイスガイに勝ってほしい。
ガルシアだって、ナイスガイになれないわけじゃない。実際、昨年の「Bad boy」から、
今年は「So- so good」ぐらいまで変身できているのだから。
そして何より、「おい、悪がき!」と思いながらも「一度は勝たせたい」と願ってくれるファンがいるのだから、ガルシアにもいつか勝機は訪れる。彼がメジャーを制したとき、みんなが「ああ、ナイスガイが勝ったね」と言ってくれたら最高だろう。

(ガルシアの成長が見て取れた全米プロだった)
Photo/JJ Tanabe
2008年08月12日
全米プロの3日目のこと。雷雨で中断中、仲良しのワシントンポストの記者とコーヒーを飲みながら談笑していた。彼はきわめて口が悪く、短気なのだが、彼いわく、「ああ、もう最低だな、この大会。上位陣は冴えないし、中断はするし、全米プロにしちゃあ難しすぎて、まるで全米オープンの真似っこみたいだし。おまけに、どうやら日曜には終わらないらしいぜ。日曜も天気予報は最悪だ。きっと終わらない。PGAオブ・アメリカは、すでに月曜フィニッシュに備えて準備を開始しているし、そうなると、このつまらないデトロイトにもう1日残らなきゃいけないんだぜ。な、最悪だろう?あー、最悪。面白くねえ。バカやろ~!」。彼は、そんなふうに怒っていた。
確かに、試合の展開は、初日から3日目までは、正直言って、あんまり面白くはなかった。そもそも、4大メジャーには、各大会それぞれのカラーがあって、アメリカで開催される3つは、マスターズはさておき、全米オープンはイーブンパーと戦う我慢大会、全米プロはスコアを伸ばしながらのバーディ合戦となるのが当然という認識だった。

(勝つべくして勝った!?)
だが、近年はコース設定を難しくしないと、選手たちの実力差が出ないという考え方になり、どのメジャーも、とにかく難しくする方向へ走り始めているのだ。
だからだろう。今回の全米プロの設定は全米プロらしからぬ設定。その結果、当然ながら全米プロらしからぬ展開となったわけだ。
おまけにタイガーも不在。それゆえ「何か変だなあ」という声は、常連メディアのみならず選手たちの間でも聞かれていた。
しかし、やっぱり最終日は、どうしてだか熱い展開になるのがメジャーだ。2日目終了後までは「今週はもう終わった気がする」と心身の疲弊と不調を訴えていたパドレイグ・ハリントンが、ひっそりと上位に向かい、まるで昨年の全英オープンの再現のように、勝ちかけていたセルジオ・ガルシアを抑えこんで優勝となった。
感激したのは、ハリントンのこんな言葉。「ガルシアに対して、どう感じるか?」という質問に彼はこう答えた。
「人間としては、かわいそうだな、悪いなと思う。でも、戦う人間はコースではノー・エモーション!」

(惜敗した相手が、またもやハリントンだったとは…。)
ゴルフがメンタルなゲームだからこそ、戦っている間は感情を介入させてはいけない。本当は優しく思慮深いハリントンが、あえてガルシアへの感情をゼロにして戦った。だから彼は全英2連覇に続く、今季メジャー2連勝を達成できたのだと思う。
話は変わるが、今回の日本勢は1人欠場、3人出場して予選通過は藤田寛之ただ1人。その藤田も68位タイに終わった。この結果を見て、きっと日本では「本当に日本の男子は情けない。女子はがんばっているのに」と思うだろう。確かに、順位や数字だけを見れば、その通りだし、アスリートの評価は最終的には数字だ。
しかし、たとえ予選落ちしても、たとえ下位に終わっても、その選手の心意気だけは評価してあげたいと私は思う。予選落ちした谷口徹は、これまでのメジャーでは常に「日本人は欧米人には体格的にかなわない。パワーも飛距離もかなわない」と言っていた。しかし今回は「もっとトレーニングせないかんと思った。それで10Yでも飛距離を伸ばす。究極はそこやもん」と語り、遅ればせながら来季メジャーに向けての筋トレ開始を誓った。そして藤田も決勝進出を決めた時点で「やるからには一番上を目指す」と誓い、最後まで力を振り絞った。
先の全英女子オープンで最終日を単独トップでスタートし、3位になった不動裕理は、優勝できなかったことが「悔しくはない」と言い、最終ラウンドをプレーしていたときも「優勝争いの現実感はなかった」と言った。私は、彼女のその言葉が非常に残念で、アスリートなら、チャンスに向かって強い心意気を持ってほしい、見せてほしい、ファンに夢を抱かせてほしい、一緒に悔しがってほしいと思った。
だから、そういう意味で、今回の全米プロでは、谷口、藤田の心意気にちょっぴりうれしくなった。
……という具合に、全米プロは最後の最後は不思議な盛り上がり。少なくとも私にとっては、ハリントンのメンタルゴルフと日本男児の心意気を知ることができて、最後は大いに盛り上がった全米プロとなった。
NYへの帰路、デトロイトの空港で藤田選手とばったり遭遇。不思議な盛り上がりの後は、不思議なオマケまで付いてきた。

(デトロイト空港のラウンジで藤田選手とバッタリ。リラックスした表情でした)
Photo/JJ Tanabe
2008年08月09日
全米プロ2日目が終了した。今日は私のブログの番外編です。今週は、ゴルフジャーナリストを志望する日本の某一流大学ゴルフ部4年生の学生君が取材に同行中。諸々の事情で、今回は氏名等々は伏せますが、彼が初めて自分の目で見たメジャーの感想を素直に書き綴ってもらいました。以下、学生君の即席メジャー取材日記です。
【僕が全米プロで注目したこと】
今回、生まれて初めて実際に全米プロゴルフ選手権の現場に足を運んだ。予選ラウンド2日間だけを見ても、今まで僕自身がテレビの画面越しで見ていただけでは感じることが出来なかったことをたくさん経験している。
中でも、コーリー・ペイビンのプレーには感動させられた。今大会の全参加選手中で最下位の飛距離となっているペイビンのプレースタイルは、すごく自己分析が為されていると感じさせられた。予選ラウンドの同伴競技者だった今田竜二に40~50ヤードもアウトドライブされていた。しかし、距離の長いPar4ではティーショットでフェアウェイを確実にキープし、グリーン周りの深いラフやバンカーにつかまらないよう、手前のフェアウェイにレイアップしてアプローチでどんどんピンに寄せてパーを拾っていっていた。Par4だからといってパーオンさせようと躍起になるのではなくて、距離が長いホールほど割り切った様子で冷静にプレーしているように思った。

(今田と同組でプレーしたコーリー・ペイビン)
僕は日本人選手では今田竜二と谷口徹のプレーを見たが、ショットは他のPGAツアーの選手に全く遜色がなく、また飛距離の面でもそんなに負けていないのではないかと思う。しかし、コースマネジメントの点で、なんとかバーディーチャンスにつけたいという気持ちがミスを誘発し、ボギーやダブルボギーに繋がってしまうのではないかと思った。

(いまひとつ我慢ができなかったか?という印象だった)
僕が注目していたペイビンは、パーオンさせてバーディーパットに挑むことを犠牲にしても得意のアプローチとパットで勝負してやろうという信念を持っていると感じた。だからこそ、何ホールも連続してアプローチで凌ぐ場面があっても、集中力を切らさずに良いプレーができていたのではないかと思う。
今日も終日、コースには強い風が吹いており、僕はアゲインストのホールでは本当に飛距離に関して全くアドバンテージがないペイビンが気の毒に思ったが、他の選手たちがこの試合では絶対に打たない地を這うような低いショットをドライバーで打って対処していた。これも自分自身のことを最大限に理解しているからこそ為せる業なのではないかと思った。

(地面を転がっているように見えるほどの低弾道!)
さらに驚いたのは、攻めきることができると判断したホールでは勇猛果敢にピンを狙い、少ないバーディーチャンスを作っていたこと。そうした積み重ねが通算8オーバーのギリギリながらも予選通過に繋がったのではないかと感じる。
メジャーに挑戦した日本人選手からは、よく飛距離のディスアドバンテージが世界との差であるかのように言われるが、ペイビンのように自分のプレースタイルを貫いていくことができれば、不利な側面があっても十二分に世界で戦っていくことができるのではないかと思う。(完)
………
みなさん、いかがでしょうか?
若い学生君が、ペイビンに注目して取材したのは、なかなか渋くて面白いですよね。
ペイビンのプレースタイルをよく掴んだ上で、自分なりの分析ができていると思います。それに「飛距離だけじゃないでしょ?」という主張も入っており、初取材の初感想文としては、まあまあの出来?
それでは後日、「私の感想文」も書きますので(笑)、みなさん、乞うご期待!
Photo/JJ Tanabe
*みなさん、お気軽に評価してあげてくださいね。
2008年08月06日
全英女子オープンは、日本勢の優勝が期待されていたが、勝利を手に入れたのは韓国の申智愛だった。
最終日、申はやたらと走っていた。「走っていた」と言うと、首位を走っていたという意味に取られそうだ。まあ、そうでもあるのだが、ここで言いたいのは、文字通りの「走っていた」である。あのふくよかな、というより、どっしりした(?)体をドサドサと揺らしながら、サニングデールをドッドッドッと、やたらと走っていたのだ。
どうして、やたらと走っていたのか。理由は2つあるとキャディのディーンが教えてくれた。

(軽やかな、独走?)
まず1つ。申は何度もトイレに行きたかったのだそうだ。なぜって、まあ、それは女の子だからとだけ言っておこう。で、ラウンド中にトイレに行くと、どうしてもプレーが遅くなりそうになる。しかし、同組で回るのは、日本のかつての女王様、不動だ。だから、「フドウさんを待たせてはいけない!」ということで、申は優勝争いの最中でありながら、不動に気を遣い、一生懸命に走っていたのだ。
もう1つの理由は、嵐が気になっていたから。最終日は朝から雨が降っており、途中も降ったりやんだりだったが、夕方からは、その天候が一層ひどい嵐になると言われていた。で、申は「ストームが来る前にラウンドを終わらせたいよね。だから早くプレーしなきゃ!」とキャディに言い、早くしなきゃ、早くしなきゃということで、一生懸命に走っていたのだそうだ。
これを聞いて、うーん、とうなってしまった。一体、申とはナニモノか。メジャーの優勝争いをしながら、こんなことを考えていて、それでいて、緊張も感じさせない落ち着いたプレーぶりで優勝してしまうのだから、末恐ろしい。その精神力の強靭さは、想像を超えている。
とはいえ、本当に緊張していなかったのかといえば、そうではない。最終日の前夜は緊張で眠れなかったと、優勝会見で明かしていた。当たり前だけど、やっぱり彼女だって緊張はするのだ。しかし、その緊張をプレーに出さない、顔に出さない。だから、他選手には余計に脅威になるわけだ。
顔に出さないといえば、申は自らの悲しみや苦しみ、淋しさや心細さも一切、顔に出さない。すでに報道されていると思うけれど、申は5年前、交通事故で母を亡くし、同乗していた弟と妹は1ヶ月入院するほどの重傷を負った。そんな悲しみを抱えているとは、まず思わせないあの笑顔。たった一人で転戦し、この全英にも一人でやってきて、優勝の喜びさえ分かち合う家族は誰もそばにいない。それでも彼女は、いつだってあのニコニコ顔で周囲に接しているのだ。とても20歳とは思えない。そんな彼女の強い心こそが、彼女の最大最強の武器だと私は思う。
そして、彼女の戦意にも脱帽してしまう。練習日から優勝を目標に掲げ、勝つぞと決めて勝ってしまう強さ。そうそう、できることじゃない。
一方の不動は、上位に来たことを、まるで「たまたま」のように語り、最終日に優勝に一番近い位置からスタートして最終組で回っても、「優勝争いの現実感はなかった」と言った。そして、日本のファンの期待に反し、優勝できなかったことも「悔しいとかは、ないですね」と、あっさり。
先の男子の全英オープンで、たまたま出てきたグレッグ・ノーマンが優勝争いに絡んだとき、彼は「自分への期待度は低い」「低く保つ」言い続けた。「たまたま」優勝争いに絡んだという意味では、ノーマンと不動は、よく似た状況だった。だが、53歳のノーマンの「たまたま」「期待度は低い」というのと、31歳現役バリバリの不動のそれとは、まるで立場が違うだろう。それとも不動は、すでに自身をシニアのノーマンと同じ位置づけにしてしまっているのだろうか。そのあたり、不動の言動は、どうも解せない。納得がいかない。彼女の今回のゴルフ自体は立派だったと思う。全英で3位は大健闘には違いない。しかし、せっかくなら、やっぱり前向きに語ってほしいし、日本のファンに夢を抱かせる姿勢を見せてほしいと、つくづく思った。不動には不動のスタイルや考え方があることは承知の上だが、やっぱり日本を代表するトッププロであれば、もう少し強い戦意を披露してほしいと、どうしても思ってしまう。
不動の話はさておき、申の「走り」は、いろんな意味で、豪快で、不思議で、見上げたものだった。彼女もまた、全米女子オープンを制したインビー・パークと同じ、88年生まれのドラゴンクラブのメンバーだ。
「どうして、ドラゴンクラブの子は、今年、こんなに強いんだと思う?」と聞いてみたら、申は「みんなで切磋琢磨して、優勝しようって、がんばっているからです」と、これまた一生懸命に英語で答えてくれた。
なるほど。今年はドラゴンクラブの年。申を始めとする辰年生まれの選手たちが、猪突猛進ならぬ「辰突猛進」(たつとつもうしん?発音しにくいですね。笑)を見せてくれた年だ。

(表彰式へ、いざ!)
Photo/JJ Tanabe
2008年08月02日
全英女子オープン2日目が終わった。首位には、不動裕里と申智愛。実は、それがとってもうれしい。
なぜ、うれしいか?久しぶりに(?)予想が的中しているからだ。申については、前回のこの場所で優勝候補に挙げていた。日本人選手に関しては書かなかったため、みなさんが信じてくれるかどうかはさておき、相棒カメラマンのJJとの間で「日本人で一番いいのは誰だと思う?」という予想ごっこをやっており、私は「不動トップ」を挙げていたのだ。
とはいえ、まだあと2日残っているから、この2人のどちらかが優勝すると決まったわけでは決してない。しかし、とりあえず大健闘しているわけで、その秘密は何だろうと、あれこれ考えてみた。

(2日目を終えて首位タイ。これは行けるぞ!)
不動に関しては「無欲」が功を奏していると思う。目標設定は元々低く、「アンダーで回れたら上出来」なんて言っていた。それと、彼女の場合、キャディの助けも大きい。キャディのピーター・コールマンは、かつてベルンハルト・ランガーやナンシー・ロペスのバッグを担いできた大ベテランだ。ピーターの勝利数は通算59勝。今回、不動を優勝に導けば、彼の勝利数は「60」になる。が、そんな数はさておき、不動はクラブ選択もヤーデージも何もかもをピーターに頼み、自分でやるのはパットのラインを読むことだけ。いわば「お膳立てゴルフ」をやっているわけだ。だが、そうやって役割分担を決め、キャディに頼るのもプロとしての技量の一つだ。自分よりキャディのほうが上手いことはキャディに頼む。きわめて合理的。そして、徹底してやるのが案外難しいワザでもある。2人のコンビネーションがうまく続き、不動自身の欲が彼女のメンタル面を乱すことがなければ、決勝での活躍、ひょっとしたら優勝も夢ではないと思う。
そして、申ちゃん。優勝候補に挙げた以上は、ちゃんと取材をしておかねばということで、練習日に話をした。申ちゃんいわく、サニングデールは日本のコースに似ているとのこと。でもバンカーだけは違うのだ、と。「ここのバンカーは深い。日本やアジアのバンカーは浅い」。なるほど。で、「目標は?優勝?」と尋ねると、彼女はちょっと下を向いて照れ笑いしながら、「うん」と頷いた。不動のケースとは対照的に、申は最初から優勝狙いで挑んでいた。
真っ向から勝利への階段を昇ろうとする申。無欲で、そして「お膳立て」に乗っかる形で挑む不動。そんな対照的な2人が、明日、最終組でどんな戦いを見せてくれるのか。うーん、面白くなってきたぞ~!

(新人とはいえ、実力は証明済み!)
Photo/JJ Tanabe