2008年09月28日
ツアー選手権は30名しか出場選手がいないから、1番スタートのティタイムは初日も2日目も午前11時すぎとのんびりしていた。なぜ早朝からスタートさせないのかと言えば、テレビ中継の関係上、最終組のホールアウトが東部時間の午後6時になるよう設定しているからだ。
しかし、今日3日目は突然、ティタイムが9時05分へ繰り上がり、最終組のホールアウトが午後3時になるよう設定が変更になった。なぜ?
そのワケは、やっぱりテレビ中継が原因。今日は全米のカレッジフットボールの試合が各地で行われ、そのテレビ中継が夕方から夜にかけて放送されるため、このツアー選手権の中継はフットボール中継の開始前に終了させなければいけないという事情があった。
そういえば、今田竜二の今日の出で立ちは、上下とも黒という渋いファッション。「どうして今日は、そんなに真っ黒で渋いの?」と尋ねてみたら、「これ、ジョージア大学のカラーだから」。

(上下真っ黒なんて、竜二くんにしては珍しいから思わず聞いちゃった!
Photo by Sonoko)
「どうして3日目の今日、出身大学のカラーを着たの?」とさらに尋ねると、「今日、ジョージア大学対アラバマ大学のカレッジフットボールの試合があるんです。この前、サザンカリフォルニア大学が負けたから、ジョージアは今日の試合に勝つと1位か2位ぐらいになれるんです。だから応援してるんです。だから、ババ・ワトソンも今日は黒いの着てるでしょ?」
なるほど。確かにワトソンも黒いウエアを着ていた。PGAツアーの選手になっても、やっぱり出身大学に対する愛校心は抱き続けるもので、プロゴルファーであってもカレッジフットボールは気になるらしい。
だが、私が本当に気になるのは、彼らの愛校心ではなくPGAツアーの大会運営やプレーオフのシステムのこと。そもそも4試合に渡るプレーオフというものは、フットボールや野球、バスケットボールなど他の人気スポーツとのバッティングを避け、ゴルフ中継がしっかりなされることを見込んで設けられたはずだ。しかし、その締めくくりとなる最終戦のツアー選手権のスタート時間が、ムービングデーという大切な3日目に変更を余儀なくされるのでは、「何のために、あれこれ抜本的にシステムを変えてフェデクスカップやらプレーオフやらを考案したの?」と、ちょっぴり首をかしげたくなる。
とはいえ、ツアー運営とテレビ中継は一心同体のようなもの。ツアーなくして中継はないし、中継なくしてツアーの存続は不可能。だから、まあ、あんまり目くじらを立てて「そりゃ、おかしい!」と言うのではなく、「お互い協力し合い、譲り合って共存共栄しましょうね」というのが、ツアーとテレビ局の姿勢なのだろう。
そう考えれば、3日目だけスタート時間が変更されたことも、ツアーの繁栄のためなのだと納得できる。そして、ツアーメンバーである選手たちが、愛校心からウエアを選ぶことは、結局はツアーのためにもなるんだなあと思えてくる。
世の中、否定的に受け取れば、なんでも批判したくなるけれど、いい方へ受け取れば、結論もいい方へ向くもんだ。

(笑顔で母校を応援してます!Photo by Sonoko)
2008年09月24日
いよいよ、最終戦ツアー選手権ウィークの開幕だ。プレーオフシリーズを締めくくり、フェデックスカップチャンピオンを決める重要な大会。会場となるアトランタ郊外のイーストレイクGCは、さぞかし賑わっているのだろう……そう思って、徹夜のまま早朝便に乗り、勇んでやってきたというのに、まったくの肩透かしを食らわされた。

(18番ホールにも誰一人いない)
コースには、とにかく人がいない!選手もいない。ギャラリーもいない。本当に10ミリオンボーナスを賭けた最終戦の会場なの??と疑いたくなるほど閑散としているのだ。だが、ふと思い出した。そういえば、ツアー選手権の練習日は、毎年、こんな感じだったなあ、と。
そもそも出場選手が30名しかないわけだから、頭数だけ考えても通常の試合よりひっそりしているのは当然だ。しかし、今年はその「ひっそり感」が極端なのだ。どうしてだろう?
そうか。つい2日前、ライダーカップが終了したばかり。熱き欧米対決にエネルギーを投入した選手たちは、今日はまだオフを取っていて、コースには姿を現さないのだ。もちろん、ライダーカップとは無関係の選手たちは、それなりに午前中から顔を見せた。初出場の今田竜二もその一人。異なるタイプのドライバーをあれこれ試打した末、練習ラウンドに繰り出して行った。
しかし、ギャラリーが皆無なのは、なぜか?コース上の売店のオバサンから聞き込んだ噂によれば、「PGAツアーがギャラリーを火曜日まで締め出している」とのこと。どうして締め出す必要があるんだ?さっそくPGAツアーに確認してみたら、「締め出す?冗談じゃない。ライダーカップ直後だから大半の選手たちは水曜からしかコースに来ない。それがわかっているのに月曜、火曜も入場券を売ってしまったら、そんな事情を知らずにお金を払って入場したギャラリーは『誰もいないじゃないか!』ということになる。ギャラリーを落胆させないために、私たちツアーは入場券を水曜からの発売にしたんですよ」

なるほど。噂というのは、とかく否定的なニュアンスを伴って広まっていくものだということが、よーくわかる一例だった。噂の正体は、とかく噂とは正反対であることが多い。
ところで、もう1つ、面白い噂を耳にした。なぜ、面白いか?なぜなら、この私に関するとんでもない噂が広められていたことを知ったからだ。
とんでもない噂は、こんな内容だった。
「舩越さんがNHK・BSのゴルフ中継の解説者になりたくて、NHKに売り込みに行ったらしい。それを聞いて、現・解説者の佐渡さんがビビっているらしい」
はあっ?聞いた瞬間、思わず吹き出した。すごい作り話。どうしてこんなに根も葉もない噂が広まるんだろう。いや、なぜ広まるのかではなく、誰かが故意に作った作り話を広めているから広まるだけの話。それにしても、こんな話を考え出し、一生懸命に広めている人の想像力と創造力は大したものだ。本当は、その力を仕事に生かせればすごいんだろうけど、クリエイトしているのが、こんな下らない噂なのだから、ちょっっぴりかわいそうにさえなる。

Photo/JJ Tanabe
こんな噂を広められたら、私も大迷惑だけれど、佐渡さんだって大迷惑だ。
いつだったか、あるセミナーの講演で、佐渡さんとご一緒させていただいたことがある。佐渡さんはすでに何度も講演をこなしていたベテランだが、そのときの私は生れて初めての講演だったため、出番の直前、コーヒーカップを持つ手がガタガタ震えてしまった。それを見て、冗談を言って、緊張していた私をリラックスさせてくれたのが佐渡さんだった。
そんな大先輩の佐渡さんを差し置いて自分が出しゃばるために売り込みに行く?しかも、私には畑違いのテレビ局へ?しかも国営放送のNHKへ?そんなこと、考えたことすらないし、だいたいゴルフ中継の担当者の名前すら私は知らないし、1万歩譲って私が売り込みをしたとしても、そんなことで佐渡さんがビビるわけはないではないか。そもそも、仕事は売り込みなんかではなく日ごろの努力と実力で得ていくものではないのだろうか?売り込みや根回しや愛想笑いなんかで簡単に動くものなら、国民全員が官僚にでも弁護士にでも医者にでも何にでもなれちゃうではないか……なんてことを書けば書くほど、噂の天才クリエイターに新たなネタを提供してしまうんだろうから、もう、こんな噂、放っておくのが一番いい。
しかし、放っておくと、どうなるんだろう。噂はどんどんエスカレートするんだろうか。だとしたら、あと半年ぐらいすると、「舩越さんが米LPGA会長になりたくて、キャロリン・ビーベンス会長の元へ通っているらしい」とか、「舩越さんがアメリカの大統領になりたくて、ヒラリー・クリントンと密かに手を結んだらしい」とか、そのぐらい噂が拡大したりはしないだろうか。そうなったら、もっと笑えるのに。
そんな話が出てくるわけないだろう?と思うかもしれない。だが、噂の天才クリエイターは、びっくりするような話を作るのが天才的ゆえ、そのぐらい極端な話だって真顔で語って周囲を信じさせたりするもんだ。そう、まさに天才だ。
しかし、そんな悪意に満ちた噂を耳にしたとしても、ちゃんとした人々は、噂を鵜呑みにせず、「噂の正体」は「噂」とは正反対であることを察してくれると思う。少なくとも、私が日ごろお付き合いをさせてもらっている方々には真実を見抜く目があると信じているから、噂なんて全然怖くない。それより、馬鹿げた噂がどこまでエスカレートするのか、どんな方法で広めていくのかを、ひそかに楽しみながら拝見するとしようかな。これもひとつの社会勉強?
2008年09月21日
米PGAツアーは間もなくフェデックスカップシリーズの最終戦となるツアー選手権が始まるということで、ちょっとしたドキドキ感が溢れ返っている。しかし、ゴルフ用具メーカーは、違う場所、違う意味でドキドキの争奪戦に熱心な様子だ。
というのも、今季メジャー2連勝を果たしたパドレイグ・ハリントンが、プレーオフシリーズで不調だったため、ツアー選手権に出場できなくなるという波乱が起こり、しかも、そのハリントンの用具契約が今年で切れるとあって、彼をめぐる争いがトーナメントから離れたところで盛り上がっているというわけだ。

(アメリカのみならず、秋には世界各地の試合に出かけていく)
ハリントンは現在、ウイルソンと契約中。もちろん同社はメジャー通算3勝となったビッグスターのハリントンと来年以降も契約を結びたいと切望しているのだが、続けざまのメジャー優勝によるビッグな賞金のみならず、さまざまな「おいしいオファー」が殺到していて、リッチになっているハリントンとの来季以降の契約金は、今までとは比べ物にならないほどの破格に設定しなければ継続は難しくなる。当然のことながら、水面下ではウイルソン以外のメーカーがハリントンにアプローチをかけており、こうなると、最高額を提示したメーカーがハリントンを獲得するのは自明の理。
いやいや、そうでもないかもしれない。ハリントンだからこそ、契約金の金額だけでは判断しないであろうという期待が持てるからだ。
かつて、メジャーチャンプになり、注目が高まった途端、高額のオファーに流され、愛用クラブをかなぐり捨てて他社と契約を結び、不調に陥った選手たちがいた。今は亡きペイン・スチュワートもそうだった。コーリー・ペイビンもそうだった。リー・ジャンセンも記憶に新しい。
勉強家で、冷静な分析をするハリントンが、そうした過去の例を知らないはずはない。何をするにも、まずしっかりと計画を立て、タイムフレームもきちんと設定した上で行動に移るほどのハリントンだ。お金だけに目がくらみ……なんて軽々しい行動は、きっと取らない。
時として、お金の力はすごいものだけれど、ハリントンには、欲張りすぎて大切なものを失うなんてことにだけはなってほしくない。パドレイグ、どうか、欲張らないでね!

(契約金額だけで片付かないのが、契約話しなのか?)
Photo/JJ Tanabe
2008年09月17日
リーマン・ブラザーズの経営破たん。世界を震撼させるビッグニュースが出た直後、いや正確に言えば直前から、NYのマンハッタンは蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。長年の知人である米ゴルフジャーナリストのジョン・アンドリサーニなどは「今日でアメリカは終わったよ」と落胆した声で電話をかけてきたほどだ。
この騒ぎがアメリカはもちろんのこと日本や世界の金融界、ビジネス界にもたらす影響は私にはとてもはかり知れないのだが、「それじゃあ、この騒ぎが米ゴルフ界にもたらす影響は?」と問われても、やっぱり「はかり知れない」「わからない」としか今は答えようがない。

(タイムズスクエア近くにあるリーマンブラザーズ本社。新しい観光スポットになっていた)
ちなみに、米PGAツアーのスポンサー企業を眺めてみると、FBR、ノーザントラスト等々、金融・保険関連の企業が10試合の冠スポンサーになっている。さらに、アーノルド・パーマー招待はマスターカード、メモリアルトーナメントはモルガンスタンレー、プレーヤーズ選手権はUBSという具合に、ビッグな大会のスポンサーも金融関連会社。ツアーの年間48試合中、実に4分の1が、こうした企業と密接な関係をもっている。
となると、これからのスポンサードは得られるのかどうか。ひょっとしたら米PGAツアーそのものが破たんしてしまうのではないか。そんな危惧まで膨れ上がってしまう。
だが、米PGAツアーのすばらしさ、日頃から築いてきた大会開催地との温かい関係、さまざまなチャリティ活動等々は、金融関連企業のみならず、さまざまな方面から支持を得ているわけだから、仮に今回のリーマンの一件で複数のスポンサーが降りる結果になったとしても、きっと新たなるスポンサーが名乗りをあげてくれるはず。
そう思いたい一心ではあるが、「スポンサードしたいのは山々だけど、無い袖は振れぬ」という結果にならない保証もまったくない。あのリーマン神話が崩れる現代だ。もはや何を信じたらいいのか……。すごい世の中になってきた。そんな現実を目の当たりにするにつけ、石川遼のファンクラブにオバサマ方が続々と入り、笑顔をたたえていられる日本は、なんて平和なんだろうと思ってしまう。

(リ社CEO・ファルド氏の肖像絵を描き、本社前で通行人にメッセージを求める、アーチストのジェフリー・レイモンド氏=絵の右に立つ)
Photo/JJ Tanabe
2008年09月13日
今週は米PGAツアーがオフウィーク。つまり試合が行われていない。シーズン中でありながら試合がない週ができたのは、いつ以来だろうと考えてみたら、01年のテロ勃発の際、WGCアメリカンエキスプレス選手権がその場で中止となったあのとき以来だった。
あの大会の開催地ミズーリ州のベルリーフCCで今年のBMW選手権が開催されたのは何かの偶然だろうか。テロ勃発後の数日間、飛行機が全便欠航となったため、私はミズーリで足止めとなり、結局、借りていたレンタカーを24時間以上も運転して、当時住んでいたフロリダまで帰った。あれから7年もの歳月が経過した。まさに「光陰矢のごとし」。

だが、ここだけの話、あの年、テロのせいで会社がお休みになった人々の中には、休暇気分でゴルフを楽しんだ人が実は大勢いたそうだ。当時、NYのロングアイランドにあるベスページに出かけていった人から「いつもより混んでいてびっくりした」なんて秘話も耳にした。全米各地の遊技場も、仕事が休みになって暇をもてあましていた人々で通常より混雑したという。
そんな話を聞いてしまうと、あれほどの惨事が起こっても、巻き込まれなかった人にとっては所詮、他人事だったのだろうかと思ってしまう。いろいろきれいごとを言っても、究極は「自分は自分」「自分さえ良ければ」という人々がたくさんいると思うのは、やっぱり悲しい。だが、やっぱり人間、最後は自分なのだろうと思える部分もあるにはあるから困ってしまう。
今年も9月11日はNYのグラウンドゼロで追悼式典が行われた。そのとき、NYのゴルフファンはどうしていたのかといえば、ツアーがオフゆえ、テレビでトーナメント中継を見ることもできないため、もっぱら自分がゴルフという人も多かったようだ。マンハッタンでは写真のような光景があちらこちらで見られた。
さて、みなさんに質問。もしも9・11のような大惨事が日本のどこかで起こったと仮定したとき、無事だったアナタは、その大惨事の影響で仕事が休みになったら、何をしますか?このときとばかりにゴルフへ出かけますか?

(こんな風景、あなたのマンハッタンのイメージに合ってますか?)
Photo/ JJ Tanabe
2008年09月10日
米PGAツアーはフェデックスカップのプレーオフ3試合を終え、残るは最終戦のツアー選手権だけとなった。もちろん、その後にフォールシリーズは残されているが、トッププレーヤーたちにとっての残り試合は、とりあえずツアー選手権のみである。
そんな中、多くの人々が首を傾げているのは「パドレイグ・ハリントンがツアー選手権に出場できないのは、なんかおかしくない?」ということ。
今季、全英オープンと全米プロを制し、全英2連覇、そしてメジャー2連勝という快挙を成し遂げたハリントン。彼の活躍は誰もが認めるところだ。4つのメジャーのうちの2つを制したハリントンが、今年、活躍しなかった人、がんばらなかった人だと思う者は一人としていない。

(不調の波は突然やってくるのかもしれないが、まさかこの時期に…)
Photo/JJ Tanabe
それなのに、その立役者がツアー選手権に出場できず、フェデックスカップチャンピオンに贈られる10ミリオンのボーナスにもはや手が届くわけがないという状況に陥ったわけは、言うまでもなく、今季改訂されたフェデックスカップ・ポイントシステムのせいだ。
大どんでん返しが起こりやすいよう、プレーオフ各試合における順位に与えられるポイントのギャップを変更したために、結果的にはプレーオフで頑張った選手がそのままポイントランク上位へ浮上することになった。そして、ハリントンは、どうしたわけかプレーオフは3試合とも不調で、はじめの2試合は予選落ち、予選落ちのない3試合目も55位タイと振るわなかった。それゆえ、メジャー2勝もしていながら、ポイントランクでは50位まで下降。ツアー選手権出場資格である30位以内から、あっという間に押し出されてしまったわけだ。
プレーオフが絶不調だったのだから、ツアー選手権に出られなくなったのはハリントン自身の責任――と言ってしまえば、それまでだ。しかし、フェデックスカップチャンピオンの称号やボーナスの10ミリオンは、シーズンを通じてがんばった選手に与えられるべきではないのだろうかと考えると、プレーオフ3試合だけの結果でツアー選手権という場にアクセスさえできなくなる仕掛けは、どうしても解せない。
さらに解せないのは、バードントロフィーの行方だ。バードンドロフィーは、PGAオブ・アメリカが平均スコア1位になった選手に贈る褒章で、もともと、英国ゴルファーのハリー・バードンにちなんで創設された賞ゆえ、アイルランド人のハリントンにとっては、どうしても獲得したいものだった。
だが、バードントロフィーを受け取るためには、シーズン内で最低60ラウンドをこなしてなければならないという規定がある。ハリントンはプレーオフ3試合目のBMW選手権終了時点の現在、15試合に出場し、PGAツアーの出場義務試合数である「15」はクリアしたのだが、プレーオフ3試合で不調だったため、ラウンド数では「52」しかこなしていない。ツアー選手権も出られなくなったため、もはや60ラウンドはこなせなくなり、バードントロフィー獲得は実質的に無理となった。もっと早く、もう数試合に出ていれば、話は違っていたのだろうが、ハリントンは「そんな規定があるなんて知らなかった」。
知らないほうが悪い――と言ってしまえば、それまで。だが、今季を通して一番奮闘し、一番実績を挙げたハリントンが、さまざまな褒賞や報償から除外されてしまうことを考えると、褒賞、報奨って何?と首を傾げてしまう。
バードン・トロフィーに関する規定は、今に始まったものではないため、ハリントンが知らなかったことのほうが悪いということで納得できなくもないけれど、少なくともフェデックスカップのプレーオフのポイントシステム変更については、プレーオフにビッグネームを集中させて盛り上げることやTV視聴率を稼ぐこと、スポンサーのウケを良くするというツアー側の目論見によるもので、本当にがんばったのは誰かという点が、どこかへ吹っ飛んでしまっている。ハリントンがいくら「いい人」でも、やっぱり彼だって、「そりゃないよ」という気持ちになっているはず。来季はプレーオフシステムの再検討が必至だ。
2008年09月06日
米LPGAが、発表したばかりの英語テストの実施策を、あっという間に取り下げた。潔いと言えば潔いが、こんなにあっさり取り下げられてしまうと、一体どの程度の準備をしてから発表したのだろうかと疑いたくなってしまう。
英語テストに関しては、発表後、賛否両論が巻き起こっていた。スポンサー関係でも、ステートファームから「施策の再考を!」という要望が出され、一方で、ステートファームクラシックの大会側からは施策は妥当という反論が出ていた。
プロたちの間から聞こえてきた声はというと、こちらは賛成派の意見は私の耳には届かず、聞こえてきたのは反論ばかり。女子ではロレーナ・オチョアや朴セリが「やり過ぎだ」と声明を出し、男子プロからもフィル・ミケルソンやアロン・バデリーらが「ゴルフの技量や能力があるのに英語力がないからと言ってツアーから追い出されるのはおかしい」と言っていた。実際、男子では全米オープンチャンプのアンヘル・カブレラのように、表彰式でも優勝会見でも通常のプロアマでも英語がしゃべれないビッグネームが存在している。そんな選手がPGAツアーから追い出されるなんて話が浮上したら、おそらくは大論争になるだろう。

(オチョアの母国語はスペイン語。家族との会話はもちろんスペイン語。)
今回の取り下げ発表に対して、USAトゥデイ紙は「英語テストの施策は『とりわけアジア人選手に対して差別的』という批判を巻き起こしていた」と報じていた。この報道、米LPGAを国籍を問わず全世界の選手に対して開かれたツアーにしたいと常々語っているキャロリン・ビーベンス会長にとっては最も辛辣な内容だろう。「人種や国籍、育った国や場所を問わず」と語っている会長本人が「差別的な施策」を打ち出し、批判が出たから取り下げたと言われたようなものなのだから。
結局、米LPGAは今年末に、英語テスト施策に代わる代替案をあらためて発表するそうだ。新案には、英語能力不足に対する出場停止処分は含まないとされているが、罰金等を科す可能性は残っているとのこと。
米ツアーの選手たちに英語の基本的な力があったほうがいいことは間違いないけれど、その能力を伸ばしたりテストしたりすることが、どこまでビーベンス会長が言う「ツアープレーヤーのためのビジネス拡張」になるのかどうか。
いずれにしても、先走りであったことが露呈してしまった今回の英語テスト施策発表と取り下げは、ビーベンス会長のワンマンぶりと米LPGA内部の脆弱さを世界に披露してしまう結果になった。
だが、まだ汚名挽回はできる。今回のごたごたで、あっさり引き下がったり気弱になったりするビーベンスではない。失敗のあとの努力と、その先にあるであろう成功を祈るばかりだ。

(左がビーベンス・コミッショナー。今回の撤回発表は“迅速”な判断?)
Photo/JJ Tanabe
2008年09月02日
突然ですが、今日は警官の話を少し。
先日、ある新聞のコラムの中で、「全米プロで優勝したパドレイグ・ハリントンが警官に護衛されて……」というような下りを書いた。すると、新聞社の担当デスクから、こんな問い合わせが来た。「護衛は制服警官ですか?警備会社の警備員ではないのでしょうか?」
この問い合わせを見て、なるほどと頷いてしまった。確かに日本の試合では、優勝者が表彰式に臨んだり、記者会見場へ移動したりするとき、制服警官が護衛するという状況はまずないだろう。だから、新聞社の担当デスクが「警官ではなく、警備員では?」と思うのは当然と言えば当然だろうなあ、と。
しかし、アメリカの大会、とりわけメジャーなどのビッグな大会においては、表彰式関連の護衛は大抵の場合、制服警官が行うのが通例。大会の開催地の州警察が、そうした護衛の任務につくのだ。

(全米プロで、表彰式を終えメディアセンターまで移動するハリントン。横では制服警官が護衛している)
だが、その警官たちの振る舞いに時々「?」と首を傾げさせられることがある。もちろん、テロなどの危険性をはらむアメリカでの警備は、そりゃあ大変なことだから、いちいち大勢の人々の都合なんて考えてはいられないという警察側の事情もあるのだろう。しかし、そうした都合があるにせよ、やっぱり納得がいかないなあと思うことはある。
たとえば、先日の全米プロのとき。ハリントンの母親らしき老女を発見し、取材をしようと近寄っていったときだった。老女の斜め前に私が立った直後、すぐ近くにいた制服警官がつかつかと寄ってきて私の真後ろに立った。そして、その警官は「オレの正面に立つな!邪魔だから、そこをどけ!」。不合理な言い分だとは思ったが、一応、警官がどけと言っているのだからということで、素直にやや立ち位置を変えた。すると今度は「そこは人々が通るから邪魔だ。そこをどけ!」。結局、どこに立っていても私は邪魔だということらしい。こちらもいい加減、カッとなり、「なぜ私にばかり、どけって言うんですか?」と言い返したら、「とにかくオマエは邪魔だ。そこをどけ!」
もう、言い合っても意味がないと思い、黙って米メディアたちの後方へ回った。一部始終を見ていた米メディアの一人が「気にするな。この一帯は、結構、差別なんかも多いからね」。
なるほど。確かに、私が移動した直後、それまで私が立っていた場所に他のアメリカ人記者が立ったが、警官は彼には何も言わなかった。なんだか妙にむなしい体験だった。
ところで、米ツアーで奇跡のトレーナーとして知られるジム・ウエザーという男性をご存知だろうか。ウエザーは、かつてはグリーンベレーの一員だったのだが、パラシュート事故で大怪我を負い、退役後は、工事現場で再び大惨事に遭遇。2度も生死の境をさまよい、首の骨を折ったり、一時は生涯半身不随を宣告されたり。だが、本当に奇跡的に回復した。そして、回復の過程において、ウエザーは自らが持つハンドパワーのような不思議な能力を見出し、ここ数年は米ツアー選手たちの傷病を治す奇跡のトレーナーとして活躍している。フィル・ミケルソンをはじめ大勢の選手がウエザーのパワーを認め、年間のトレーナー契約を結んでいるのだ。
そのウエザーが試合会場の表彰式で大怪我を負ったという知らせを耳にした。カナディアンオープンで優勝したチェズ・レビーはウエザーがトレーニングを施している契約プロなのだが、レビーの優勝を祝おうとシャンパンを抜いて18番グリーンへ近寄って行ったら、怪しい闖入者と見なされ、いきなり警官が後方から羽交い絞めにしたのだそうだ。
ウエザーは筋肉隆々のマッチョな男ゆえ、彼の正体を知らなければ、かなり恐ろしい男が闖入してきたと勘違いしたのかもしれない。が、とにかく有無を言わさぬ強硬な羽交い絞めのせいで、ウエザーがかつて大怪我を負って首の骨を折った際、首の一部に挿入されていたディスクのようなものが外れてしまい、ウエザーはそのまま救急病院へ。しばらくは声も出ず、呼吸困難。命にも障るかもしれぬほどの病状に陥ったのだそうだ。
そのウエザーが、やっと試合会場へ姿を現した。回復は思ったより早かったということで、もう元気そうには見えた。が、ウエザーいわく、「警官が任務を遂行するのは、もちろんわかる。しかし、せめて一言、謝罪が欲しかった。その一言もないままでは、オレだって納得がいかない」。間もなくウエザーは訴訟に踏み切るそうだ。
こんな話を聞いてしまうと、警察や大会会場の警備のあり方に、やっぱり首をかしげてしまう。安全を確保してくれるのは、もちろん、ありがたいことだ。私の一件は、心情的に不愉快だったという程度だから、まだ我慢はできる。しかし、ウエザーの一件は、我慢なんてものを通り越した話。ウエザーがあのまま命を落とすことにでもなっていたら、一体、どういう展開が待っていたのか……。空恐ろしい話だ。

(元気な姿を見せてくれたジム。まだ、声は少し小さかったが、大事に至らずなによりです)
Photo/JJ Tanabe