2009年07月31日
あの全英オープンで予選落ちを喫したタイガー・ウッズが今週は復活をかけてビュイックオープンに出場している。まさか予選落ちするとは誰も思っていなかったが、その予選落ちに一番驚いたのはタイガー自身だったろう。スイングが想像以上に狂ってしまっていたことに、いまさらながら気づかされてしまったタイガー。すでにターンベリーでは「コーチのハンク・ヘイニー解任は時間の問題」と囁かれ始めていたが、もしもヘイニー解任が本当に起こり、明るみになるとすれば、それは今週か、あるいは来週あたり。

(全英での苦しみぶりは激しかったが、復活できる?)
Photo / 平岡純 Jun Hiraoka
そもそも、タイガーがメジャー出場に向けて3週連続出場のスケジュールを組むのは、結構な「異例の事態」。そんなところからも、タイガーの驚きと落胆、そして復活への強い意欲が感じられる。
ビュイックオープンがこの大会名で開催されるのは、今年が最後となる。GM社のスポンサー撤退が発表され、長い間、米ツアーで親しまれてきたこの名前がツアーから消えてしまうことになった。タイガーはすでに同社と9年間に渡って結んできた契約を解消しているが、試合会場にくるときは、実はいまだにビュイック車に乗っている。それがなぜなのかはわからない。長年、お世話になったビュイックへの想い?それとも、公表されていない秘かな関係が同社とタイガーの間に存在するのだろうか。
まあ、そんなことは、この際、どっちでもいい。今年、1度ぐらいはタイガーのメジャー勝利を見たい。となれば、やっぱりタイガーにはあの予選落ちのショックから早く立ち直り、復活してもらわなければ。だから、今週のビュイックオープンで、なんとか優勝してもらいたいのだが、初日は思いきり出遅れ。大丈夫かなあ、タイガー。
復活といえば、フィル・ミケルソンが来週のWGC-BS招待からツアーに復帰する。妻と実母が同じタイミングで乳がんの手術を受けたミケルソンの胸中を想うと、なんと言ってあげたらよいのやら、言葉が見つからないのだが、辛い想いや辛い事情を抱えているからこそ、がんばれるということもあるはずだ。ミケルソンを最後に見たのは、あの雨にたたられた全米オープンだった。大観衆の声援に応えるように最後には優勝争いに絡み、しかし勝つことはできなかった。そんなミケルソンが、来週からの復帰戦線で奮闘してくれることを祈っている。

(ミケルソンを最後に見たのは全米オープン。その後の試練を乗り越え、来週から復活しておくれ)
Photo / 平岡純 Jun Hiraoka
最後に、もう1つ。辛い想いや辛い事情を抱えているからこそ、がんばれる……宮里藍ちゃんの初優勝までの軌跡は、まさにそんな日々の積み重ねだった。鳴り物入りで米ツアーデビューしたのはいいが、勝てない日々が続き、スランプに泣き、どんどん歳月が流れていく中で、彼女はずっと頑張ってきた。しかし彼女は、スランプから抜け出せなかったことの辛い想いや辛い事情を、すべて自分なりに明るく前進するための原動力へ変えていった。みんないろんなことを乗り越えてきたからこそ今があるんだということを、アニカやオチョア、自分の父親や母親の歩みから悟り、この程度のスランプなんて大したことないさと自分に言い聞かせながら、いつも笑っていた。あのころ、あんな笑顔ができたこと。それが彼女の持つ最高の才能だったのだと思う。あのころを思い出すにつけ、「よくここまで復活したね、藍ちゃん」と本当に感心させられる。藍ちゃん、本当に良かったね。おめでとう。
2009年07月25日
全英オープンのこぼれ話を1つ。ターンベリーには、コースと道を隔てたところに立派なホテルが建っている。ターンベリーのホテルだ。大会期間中、このホテルでパーティなんかも開かれており、一部の選手たちも、このホテルに宿泊していた。なんと言っても、コースへ徒歩で行けるのが魅力。言うまでもなく、いろんなタイプの部屋があり、わりとスタンダードな部屋で1泊800ポンド前後とか。なかなか高い!

(向こう側にあるのがターンベリーホテル。手前の陸橋を渡ってコースへ行けるから近い!でも我々は、機材や重い荷物を持ってこの陸橋を朝晩渡るのが、とっても大変だった……)
Photo / 平岡純 Jun Hiraoka
さて、このホテルにはスイートルームがいくつかあり、その中には77年にこのターンベリーでの全英で優勝したトム・ワトソンの名をつけた「ワトソン・スイート」というのがある。もちろん中はゆったりと広く、それはそれはゴージャスらしい。それ相応の値段なのだろうけれど、残念ながら値段まではわからず。
そして今回の全英期間中、このワトソン・スイートには、なぜかビジェイ・シンが泊まっていた。シンにしてみれば、チャンピオンのワトソンの名が冠されたスイートに泊まって英気をもらおうぐらいの考えだったのかもしれない。だが、シン自身は38位タイどまり。
一方、ワトソンは、自らの名が冠されたスイートがありながら、このターンベリーホテルには泊まらず、隣町のホテルに宿泊していた。
そんな中、ワトソンが初日から2位発進し、最後の最後まで大健闘しちゃったものだから、ワトソン・スイートに泊まっていたシンは「ああ、居場所がない……」と肩身の狭い思いをしていたのだそうだ。メディアからもワトソン・スイートのことを何度も尋ねられ、そのたびにシンは、あー、妙なところに妙なタイミングで泊まってしまったと思ったに違いない。

(オレがあの部屋に泊まってちゃいけないのかあ~~と言いたくなった?)
Photo / 平岡純Jun Hiraoka
それにしても、なぜワトソンはワトソン・スイートに泊まらなかったのだろう。一説では、宿泊費の節約。もはやシニアのチャンピオンズツアーでの賞金しか稼いでいなかったワトソンにとって、あのホテルのスイートの料金は高すぎた……との説。かつての新帝王の黄金時代を知る人には信じられない話かもしれないが、「もはやアメリカでは私のことを知っている人もたいしておらず、声もかけられないし……」とワトソンが言っていた。だから「ターンベリーにきて、トム、トムと地元の人々がやたらと声をかけてくれるのが、すごくうれしくて……」。あれだけゴルフ界をきわめても、名声や稼ぎは歳月が流れると、やっぱり落ちていくものなのだなあ。少し淋しい話だ。でも、今回の2位の45万ポンドをもってすれば、来年のセントアンドリュースでは高いホテルも、なんのその?

(経費節減の折り……隣町に泊まった?)
Photo / 平岡純 Jun Hiraoka
しかし、そういうときに限って、成績は悪くなったりするもんだろうなあ、きっと。ゆったり贅沢気分を味わうと戦意は落ちるものなのかもしれない。となると、やっぱり、贅沢は敵だ!?
2009年07月23日
全英オープンが終わって、早3日。しかし疲れが抜けない。あんなに大変な全英も珍しかった。予選ラウンドはタイガー・ウッズと石川遼の同組ラウンドでてんやわんや。その2人が2人とも姿を消してしまったから、決勝2日間は少しのんびり取材できるかと思っていたら、ところがところがトム・ワトソンの夢の最年長優勝が現実味を帯び出して、そこから先はまたまたてんやわんや。そして最後はプレーオフ。ワトソンはその4ホールになった途端、大崩れで敗北……うーん、こんなにすごいストーリーを一体誰が考えたのだろうかと尊敬してしまう。やっぱり、この壮大なドラマの劇作家は、ターンベリーに棲む勝利の女神とやらなのだろうか。

Photo / 平岡純 Jun Hiraoka
そう言えば、ワトソンはずっとターンベリーのことを「Lady Turnberry」と呼んでいた。なぜ「Lady」が付くのか、ちょっと不思議だが、その理由はきっと、ワトソンが英国リンクスに恋をし続け、恋の相手だから、男性のワトソンからすると「相手=女性=Lady」となるのだろう。
最終日、今田竜二に「ワトソン、勝っちゃうかなあ?」と尋ねると、「全然ありでしょ。優勝確率30%ぐらいはある」「えっ、30%?そんなもん?」「30%あれば相当なもんでしょ?」という見通しだった。今田によれば、昨年のグレッグ・ノーマンより今年のワトソンのほうが優勝できる可能性はずっと高いとのことだった。その理由を聞いてみると、「あれだけフェアウエイとグリーンを捉えているし、全英には過去5回も勝っているし、何と言っても、優勝の二文字から離れていた時間がノーマンに比べるとワトソンのほうが短いから」。

Photo / Sonoko Funakoshi
なるほどねえ。やっぱり選手らしい見方をするもんだと思った。確かに、ノーマンはすでにプロゴルファーというよりゴルフから半引退してビジネスマン生活を送っていた矢先の大浮上だったが、ワトソンはずっとシニアのチャンピオンズツアーに出続け、07年の全英シニアで優勝もしていた。勝つためには「勝ち方」があると言われるが、その「勝ち方」には賞味期限があって、あんまり時間が経ってしまうと、すっかり味を忘れてしまう。そういう意味でワトソンが覚えている「勝ち方」は賞味期限内。ノーマンのそれはすっかり賞味期限を超えていた、ということなのだろう。
だが、それでもワトソンがプレーオフで崩れてしまったのは、なぜなのか。記者会見で「ガス欠か?」と問われたワトソンは「自分ではそう感じてはいなかった。でも、そう見えただろう?」と答えた。「そう見えただろう?」という言葉には、「本当はそうじゃないんだけど」の意が込められていたのだと思った。
本当はガス欠じゃないとしたら、本当は何なのか?「本当はガス欠じゃなくて、燃料はたくさん残っていた」とは考えにくい。だとしたら、本当は何?
いろいろ考えたのだけれど、私がたどり着いた結論は「本当は、元々、十分な燃料など無かった」である。59歳の心身に、20歳代、30歳代と同じだけの燃料は最初から備わってはいなかった。けれど、初出場して初優勝した75年の全英で英国リンクスとの恋に落ちたワトソンは、もう1度、英国リンクスで勝ちたいという想いに溢れていた。チャンスがあるのはリンクスだけ、全英だけ。「もはやオーガスタには行きたくない。勝負にならない」と思っているワトソンにとって、来年は60歳の「全英・定年」を迎えるワトソンにとって、残されたチャンスはわずか。だから彼は、最初から燃料不足を承知の上で、若い選手たちが豊富なガソリンを燃やす中、自分は気力という名の薪(たきぎ)を燃料に変え、燃やし続けた。けれど、72ホール目の第2打でクラブ選択を誤り、ボギーとなってプレーオフ突入という運びになったとき、その気力が切れてしまったのだ。
だから、切れたのは、尽きたのは、本来の燃料ではなく、彼の気力。そこに59歳の限界があったのだと思う。しかし、勝ってほしかった。最後は祈ってしまった。「お願い。そのパーパット、入れて!」。そんな私の祈りもむなしく散ってしまったけれど、人間、頑張れば頑張れるんだなと思わせてくれる活躍だった。最終的に優勝という結果が得られなくても、人々を感動させることはできる。そんなゴルフの素晴らしさを再認識させられた素敵な全英だった。
しかし……ケニー・ペリーが惜敗したマスターズといい、荒天で大混乱した全米オープンといい、今回の全英オープンといい、今年のメジャーはなんだか波乱ばかりで凄い。私もやたらと体力気力を消耗しており、ワトソンではなく私のほうが、そろそろ、ガス欠?(笑)
2009年07月17日
全英オープン会場ターンベリーのコース内をアンビュランス(救急車)が走っていた。と言っても、「車」ではなく「自転車」。そしてもちろん病人やけが人を運べるわけではないのだが、とにかく救急患者が出たら、すぐさまかけつけるためには、リンクスコースでは車より自転車のほうが早いのである。

(ターンベリーを走る「救急車」は、たった2台しかない!)
Photo / Jun Hiraoka 平岡純
このアンビュランス自転車、全英オープンでは、たったの2台しか用意されていないそうで、とにかく1日中、駆け回って大忙し。デコボコ道を歩いて転ぶ人も多いから、出動回数は増えるばかりなのだそうだ。
ところで、今は予選2日目の真っただ中。まだ、午前スタートの選手たちがもうすぐフィニッシュするかなあという時間だが、そんな中で一番「アンビュランス」に駆けつけてほしかったのは、ひょっとしたら今田竜二だったかもしれない。

(がんばってほしかったんだけど……)
Photo / Jun Hiraoka 平岡純
今田は全米オープン直後ぐらいから、ショットが急激に曲がり始め、不調になった。「えっ、今田のショットが曲がるのは昔からじゃないの?」と思うかもしれないが、彼のショットは今年のマスターズごろには本当に曲がらない正確なショットになっていたのだ。5月、6月ごろも好調。しかし、全米オープン直後から、また昔の「曲がる今田」になってしまった。
その曲がり方があまりにひどいと感じた今田は、ターンベリーでの練習ラウンドを3日連続でビジェイ・シンと回り、そのシンにワンポイント・アドバイスを受けた。「切り返し以降を、もっと下半身重視で!」「もう少し頭を残して!」とう具合。そのおかげで練習ラウンドのときは「少しわかった」と言っていたが、試合になってみたら「やっぱり1日や2日では……」という結果だった。
4オーバーで回った初日のラウンド後、風が吹いたら2日目の大挽回は可能かと尋ねてみたが、「いやあ、このショットの調子では挽回は難しい」と、あきらめコメント。ちょっと淋しいコメントだけれど、まあ、付け焼刃ではどうにもならないことはあるわけで、一番がっかりしているのは今田自身なのだろう。
なんとか応急処置ができたらいいのに……アンビュランス自転車が魔法でもかけてくれるのなら……でも、アンビュランス自転車にそんな魔力があるとしたら、選手全員が「来てくれ!」と呼んでしまうだろうから、出動回数が増えすぎて2台では太刀打ちできなくなる。しかし、台数を増やしたら、魔力も減るかも。貴重だからこそ、魔力もある。救いの女神とは、そういうものだろう。ゴルファーにとっての救いの女神も、たぶんこの世の中に1人ぐらいしかおらず、その女神に救ってもらえる選手がクラレットジャグを受け取る。
そんな幸運な選手は誰になるのだろう。トム・ワトソン?去年のグレッグ・ノーマン・ストーリー的な展開になるとしたら、最後の最後にワトソンも負けてしまう。だったら、久保谷?……いや、そりゃないでしょうね。だって、久保谷はすでに初日から運を使いすぎのようだから。
2009年07月15日
石川遼とタイガー・ウッズが同組で回る――日本はその話題で大いに盛り上がっていると聞いた。そりゃ、そうだろう。で、気になるのは、全英会場では、どうか。欧米メディアも大いに注目しているのか、どうか。

(冷たい風が吹いても、寒さを忘れて練習していた。若さゆえ?やる気ゆえ?どっちもですね)
Photo / Jun Hiraoka 平岡純
ちなみに、今日の火曜日に開かれたタイガーの記者会見。「石川と同組……」の質問は、欧米メディアからはまったく出ず、結局、会見の最後のほうで日本のテレビ局が「そろそろ、この話を聞かないと……」というタイミングで質問。それに対してタイガーは、「とっても静かなラウンドになるだろうね」といきなりジョークとも皮肉とも取れる受け答え。そう、静かなわけがない。ターンベリーにきている日本メディア全員がロープ内を歩いて石川の一挙一動を追いかけるのだから、そりゃあもう、大騒ぎになるのは目に見えている。だからタイガーは逆に「quiet」と言ったのだ。

(返答はいきなり「Very Quiet.」だった)
Photo / Jun Hiraoka 平岡純
会見後、米メディアたちとその話をしていたら、彼らは一様に「いやあ、木曜日のタイガーの組はZOO(動物園)になるなあ」と頷き合っていた。
「ZOO」は英語の会話ではよく出てくる一種の例え。大勢がぞろぞろと連れ立って歩きながら何かを見る様子が、動物園でアニマルを眺める様子に似ているため、そんな表現をするわけで、となると、タイガーは「虎」だとして、石川は「何て動物?」。その答えは出なかったが、彼らに「だったら、アナタがたは初日はZOOに行くの?行かないの?」と尋ねると、「とりあえず、やっぱりZOOには行くよ。動物にあげるエサを持っていかないとなあ。バナナかな。虎はバナナじゃ喜ばないよなあ」と、どこまでも動物園ネタで話をしていた。
まあ、ZOOはさておき、気になるのは、タイガーにとって石川との同組ラウンドがどう影響するのか。タイガー取材をずっと続けている米メディアたちの意見は「タイガーはいつだってサーカスの中心人物にされることに慣れているから、どんなにジャパニーズメディアがロープ内をぞろぞろ歩こうが、カメラマンたちの動きが少々邪魔だと感じようが、それで調子を落としたら狂ったりということはまずないよ。タイガーは誰と回ろうが影響されない。この同組ラウンドで損をするのはリョウのほうだと思うよ。タイガーと一緒じゃなければしなかった緊張もすることになるだろうし。まあ、虎の餌食になっちゃうだろうね」
うーん。餌食になるかどうかは……始まってみないとわからないけれど、タイガーへの憧れや目標を強く抱いてきた石川だけに、それが想像以上の緊張を呼ぶ可能性は高いかもしれない。米ツアーに憧れ続けた分だけ、初出場時は緊張で体が固くなってしまった。マスターズに憧れ続けた分だけ、大勢のギャラリーを目にした途端、緊張でスイングがおかしくなってしまった。そう考えると……。
でも、どうなろうが、もはや、やるしかないわけで、米メディアが「ZOO」と呼ぶのであれば、そのZOOが「本当に面白いZOOだったね」と言ってもらえるような奮闘ぶりを披露するしかない。初日のZOOが楽しみだ。
2009年07月10日
今週は女子ゴルフの最高峰と言われる全米女子オープン。しかし、実際のところ、メジャー開催ウィークという雰囲気ではない。米LPGAコミッショナー、キャロリン・ビーベンスに対し、15人前後の選手たちによる退任要求レターが突きつけられたと思ったら、あっという間にビーベンスが辞任することが明らかにされ、もはや事態はドロドロだ。
どうして、わざわざメジャーウィークにこんなことになったのか。どうして、こんなタイミングなのか。その答えは、どっちの側からモノを見るかで、グッドタイミングにもバッドタイミングにもなる。
グッドタイミングだと思っている人々――それは言うまでもなく、ビーベンス退任を心底望んでいる人々だ。そもそも、選手たちによる退任要求レターが、本当に選手たちだけの考えや意見によって作成され、突きつけられたのかどうかは疑わしい。プレーヤーである選手たちが、彼女たちだけでそこまでツアー運営に直接的に関係する決定的な動きをするとは何とも考えにくい。この動きの裏側には、必ずや裏で糸を引く人間(たち)がいる。ビーベンスを退任させ、自分たち自身、あるいは関係する誰かをビーベンスの後釜に据えることで利益を得るであろう人々だ。米国内では人気も注目も下がりっぱなしの女子ツアーがシーズン中に一番注目されるのは今週の全米女子オープンウィークである。だから、今こそグッドタイミング……そういう意図で、レターを選手たちに作らせるようけしかけ、今、コトを起こした。そうとしか思えない。
もしも、選手たちだけの考えや意見によってレターを突きつけたのだとすれば、同じように、今週こそがグッドタイミングということで、このタイミングを選んだことになる。しかし、プレーヤーにとってメジャー大会は、ツアー問題や会長問題はさておき、やっぱり大事な稼ぎ時だ。そう考えると、やっぱり選手たちだけで考えたことだとは思えないのである。
レターの中に名を連ねているのは、現在、女子ツアーの中心的役割を担っている選手たちばかりだ。新女王ロレーナ・オチョア、ポーラ・クリーマー等々。もしも彼女たちが、スポンサーを次々に失って試合数大幅減を見ている現在の女子ツアーの衰退ぶりを本当にビーベンスだけのせいだと思っているとしたら、それはとんでもない勘違いだ。ビーベンスのワンマンぶりのせいでスポンサーが逃げたとか、レターはそういう内容のようにも報じられているけれど、スポンサーが逃げた原因の1つには女子ツアーを担う選手たちのふがいなさもある。長年、女王の座に君臨してきたアニカ・ソレンスタムが引退した今、新しい時代を担うべきオチョアは、ソレンスタムと同等かそれ以上の強さを見せているのかと問われたとき、オチョアは「イエス」とは答えられないはずだ。アメリカ人選手のスター不在が米国内での人気低迷の最大原因であることは明らかだが、その現状に対し、アメリカ人の中で現在ナンバー1のクリーマーは、期待された活躍を十分に披露してきたのかと問われたら、これはもちろん努力だけではどうにもならない面もあるけれど、いまだにメジャー未勝利だし、圧倒的強さを見せるまでには至っていない。そんな状態で、選手たちが自分たちのふがいなさを差し置いて、すべてをビーベンスのせいにするなんて……いやいや、選手たちはそこまで身勝手ではないだろう。だから、やっぱり裏に糸を引く者がいるはずなのだ。

(会長の退任要求をするより、他にもっとやるべきことがあるのでは?)
Photo / Nozomu Nakajima 中島望
バッドタイミングだと感じている人――それは、ツアー運営を心から心配する選手たち。そして、全米女子オープンというメジャー大会を心から大事に思う選手たち。その筆頭は「せめてシーズンが終わってから取り組むべきコトだ」とコメントとしたメグ・マローンのような選手だ。衰退している米国の女子ツアーを本当に少しでも救いたいのなら、せめて最大イベントの全米女子オープンでは余計なことにとらわれずプレーだけに専念すべき。それなのに、なぜこんなタイミングでこんなゴタゴタを引き起こすのか。そう考えると、あまりにもバッドタイミングであろう。
さて、これから女子ツアーはどうなるのか。コミッショナー職は誰が引き継ぎ、どうなっていくのか。いずれにしても、新コミッショナーの候補なりが明らかになれば、今回のゴタゴタの裏側に一体何があったのかが、ある程度はわかるはずだ。その真相を究明することに意味があるのかどうかは、今はわからない。間違いなく利権争いが絡んでいる。誰かが何かの目的で、陰で動いている。それを明らかにすることが後々のゴルフ界のためになるのであれば、一生懸命、真相究明したいと思うけれど、一部の人間たちによる単なる利権争いがすべての原因だとすれば、そんな真相を究明したところで何の意味もない。単に、そんな良からぬ人々を批判したり批難したりするために労力を使いたいとは全く思わない。
タイミングねえ……。タイミングを選んで何かができることは、どっちにしても幸せなことだということを、今回のゴタゴタの中心人物には忘れることなく記憶しておいてほしいと思う。
愛妻エイミーに次ぎ、母親まで乳がんと診断され、同じ病院で続けざまに妻と母が手術を受けることになってしまったフィル・ミケルソン。彼はタイガー・ウッズ同様、メジャー優勝を渇望し続けているスター選手だ。これから全米オープンだというところで、突然、エイミーのがんを知らされ、エイミーの手術のために全英オープン出場を断念。そして今度は母親のがんを知らされ、彼は今、メジャー優勝どころではない。そう、病気はタイミングを選べない。家族の健康を思うとき、タイミングは選べないのだ。

(あまりにも辛いよね、フィル……)
Photo / Nozomu Nakajima 中島望
2年前、私ががんを告知されたとき、やっぱりタイミングなんてものは選べなかった。どうして今?なぜ私が?そう思ったけれど、がんと言われてしまった以上、もはやどうすることもできなかった。だが、自分の利益や都合だけに照らして、私ががんを告知されたタイミングを「タイミングが悪すぎる」と言い放った人物が1人だけいた。あれには本当に驚かされ、心底がっかりさせられた。そして、途轍もなく悲しくなった。人間の正体は、こういうときにわかるんだと思い知らされた。そんな嫌なことを思い知らされたタイミングが、自分へのがん告知と同じタイミングだったことが、どうしようもなく辛かった。がんや重い病気、重いケガ……そういうものに襲われるときというのは、思いもよらぬタイミングなのだ。きっと、そういう経験をした人はおわかりだと思う。たぶん、がんになる以前の私には、その意味がわかっていなかった。しかし、私も経験したからこそ、タイミングを選べない辛さが今はよくわかる。だから、ミケルソンの心情を察すると、他人事とは思えないのである。
それなのに、タイミングをわざわざ選んで、ドロドロ紛争を起こしている人々がゴルフ界にいる。なんとも、あさましい、悲しい話だ。
2009年07月07日
AT&Tナショナルは大会ホストのタイガー・ウッズが自分で自分の大会を制するという結果になった。最終日はディフェンディングチャンプのアンソニー・キムとの熱い一騎打ちが期待されていたけれど、実質的な一騎打ちは4ホールぐらいで終わってしまい、結局、「王者強し」が強調される展開だったと感じている。

(長男チャーリー・アクセルくんに試合会場で優勝を祝福されたのはタイガー・パパにとって初めてのこと。それにしてもチャーリーはパパに似ている!)
Photo / Nozomu Nakajima 中島望
3月にアーノルド・パーマーのパーマー招待を制し、6月にジャック・ニクラスのメモリアルを制し、そして今回、自らがホストを務めるAT&Tナショナルを制したタイガー。どうしてこうも「偉人の大会」ばかりで優勝しちゃうんだろうか?そういう試合を選んで出ているというのも、もちろんその理由の1つではあるが、やっぱり「ここで勝ちたい」という思いが強いからこそ勝つというのも理由なんだろうと思う。
そう言ってしまうと、タイガーが一番勝ちたいのはメジャーのはずなのに、今年はマスターズも全米オープンも勝ってなかったじゃないかと思う人もいるだろう。けれど、ただでさえ何が起こるかわからないゴルフは、運もつきものだし、巡り合わせも大きく作用する。とりわけメジャーという舞台は、ちょっとしたことでも大きな影響を与えるわけだから、いくら王者とて、そう簡単に勝利を手に入れられないわけだ。メジャーで勝つことがそれほど難しいからこそ、タイガーはメジャー勝利を常に第一目標に掲げ、メジャー勝利数でニクラスを抜くことを目指しているのだろう。
ところで、今年勝った3つの「偉人の大会」の中で、一番すごいと感じているのはどの勝利?どの大会?そんなことを問われたタイガーの返答。「今のところ、僕らの大会が一番なんじゃないの?」
いいなあ、この答え。自分の大会を一番だと断言できる自信。やっぱり、このぐらい自信を持たなくては偉業は達成できないんだろうなあと、つくづく思った。「僕らの大会が一番」、つまりは「自分が一番」と思えるかどうか。それは、思いあがるとか、自信過剰になるとか、そういうことではなく、「誰からも一番だと認めてもらえるだけのことを自分はきっちりやってきた」という本人の確信なのだと思う。そう確信できるだけの努力をしてきたという確認でもあるはず。こうでなくなっちゃダメだよね、何事も。
タイガーに負けたキムは、タイガーの目の前でファイナルパットを沈めて自分が勝つシーンを10歳のことから思い描いてきたという。だが、負けてしまった昨日の最終ラウンドの後、キムはこう言っていた。「タイガーは必要なところで必要なパットを入れる。だから勝てる。僕にはそれができなかった」
キムが初めて間近に見た王者のゴルフは「やっぱり自分より上だ」と思い知らされるばかりだった。でも、いつかきっとキムも「自分こそが一番」と確信できるようになる。「タイガーより僕のほうが上だ。僕が一番だ。必要なときに必要なパットを一番決められるのはこの僕だ」と思える日が来たら、そのときはきっとキムがタイガーを倒せるのだと思う。

(キムは最後までがんばった。タイガーは最後には優しい顔でキムに言葉をかけていた)
Photo / Nozomu Nakajima 中島望
キムのファイナルパットはウイニングパットではなく3位後退を決定づけるボギーパットになってしまったけれど、最後までギャラリーの声援はキムにも飛んでいた。今、「自分が一番」と言えるのは、おそらくはタイガーだけ。祝福にかけつけた妻エリンや長女のサム・アレクシスちゃん、長男チャーリー・アクセルくんも「一番強いゴルファーの家族」として、すごい注目にさらされていた。
もしかしたらキムは、それを見て、今度は「いつか僕が一番になって優勝したとき、僕の家族があんなふうに僕を祝福してくれる」なんてシーンを思い描き始めたりして?思い描くもの、追い求める理想像は何であれ、とにかくキムにはこれからもがんばってほしいなあ。
とりあえず、今はタイガー強し。タイガーが一番。おめでとう、タイガー!
2009年07月04日
今週のAT&Tナショナルは「タイガー・ウッズの大会」として注目されているのだが、実を言うと、選手や関係者の間では、それ以外の興味関心事もいっぱいある。
その1つは、グルーブ問題。グルーブとは、言うまでもなくアイアンやウエッジのフェースの溝のことだ。この溝が「ラフなどから打ったときにボールにスピンをかけすぎて、ゴルフを面白くなくしている」「ラフからでも容易にコントロールできてしまうから、フェアウエイをキープするという重要性が軽んじられる傾向になりつつある」等々、いろんな物議を醸し続け、規制をかけようという提案が以前から出ていた。現在、大半の選手が使っているウエッジの溝は、いわば「深いU型」なのだが、それを「違法」ということにして、深さや彫り方をあらためようということになりつつあった。問題は「いつから」その規制を開始するかに絞られ、ついに今週、米PGAツアーのティム・フィンチェム会長が「2010年の1月から」と発表した。
選手たちもクラブメーカーも、これに対応しなければいけないわけだから、今年のうちに「いつから」を決定するにしても、「さすがに来年からという決定をしてしまったら、あまりにも急すぎて対応が大変すぎる」とか、「だからせめて2011年開始にすべきではないのか?」とか、これまた物議を醸していたのだが、フィンチェム会長は「討議を重ねた結果、来年1月からになった」と言い切った。
これを受けて、USGAもPGAツアーにならう見込み。2週間後の全英オープンではR&Aをはじめ各国ツアーとも話し合い、おそらく世界中のプロゴルフ界が今回の米PGAツアーの決定と足並みをそろえることになるだろう。
……と、難しい話はこのぐらいにして、気になるのは選手の反応だ。もっとも、「決まったことには従うしかない」というのが大半の反応。今田竜二もそうだった。今田いわく、「ウエッジを変えることになると、それに応じてボールも変えることになるだろうし、中にはボールを変えるとドライバーも変えなきゃいけないって選手もいるだろうし……」と、深刻な顔。ツアープレーヤーは全員、あと半年以内にこの変更をやってのけなければ出場できなくなってしまうわけだから、それはそれは大変。シーズン後半は来季に向けてゴルフ用全体が激変、激動を迎えそうだ。

(竜二くんにとって、ウエッジ変更は重要問題だが、新ウエッジを握ってもショートゲームの名手であり続けてほしい……)
Photo / Nozomu Nakajima 中島望
さて、AT&Tナショナルで見られるもう1つの「激変、激動」は、全英オープン出場権をかけた最後の争いだ。これは、日本のミズノオープンで見られたもののアメリカバージョンと考えてもらえばわかりやすいだろう。石川遼が劇的優勝でターンベリーへの切符をつかんだのと同じことを、アメリカのこの大会で夢見ている選手がたくさんいる。
そんな「夢見る選手」たちが、ちゃんと上位に食い込んでいるのは、やっぱり彼らの執念だろうか。18歳のダニー・リーもその1人。そのほかにもブライス・モルダー、ロッド・パンプリング、DAポインツらが激しい争いを展開中だ。彼らは今週、最低でもトップ5に残らなければ、権利はめぐってこない。あるいはザ・プレーヤーズ以降の6試合における「全英用の賞金ランク」でトップ2に入るしかない。

(08年全米アマ優勝で得た09年全英オープン出場権を投げうって、あえて今年4月にプロ転向したダニー・リー。だからこそ自力でターンベリーへの切符をつかもうと必死なのだ)
Photo / Nozomu Nakajima 中島望
この状況で、もしもダニー・リーがミラクル・チップインイーグルでも決めて優勝したら、まさに石川のアメリカバージョンとなるのだが、リーは3日目を終えて8位タイ、首位にはタイガー・ウッズとディフェンディングのアンソニー・キムが並んでいるから、ちょっとリーの優勝は難しそうだ。そうそう、忘れてはいけない。リーと同じ8位タイに今田竜二も浮上。ゴルフは最後まで何が起こるかわからない。こうなったら、タイガーが勝つか、キムが勝つか、はたまた今田かリーか。誰が勝ってもおかしくないし、誰が勝ってもうれしいが、やっぱり気持ちとしては竜二くんに一番勝ってほしいなあ……でも、みんな、がんばって!
2009年07月02日
今週はタイガー・ウッズが大会ホストを務めるAT&Tナショナル。ワシントンDC近郊のコングレッショナルが舞台だ。大雨にたたられたあの全米オープンから、まだ2週間も経っていないのだが、ベスページで苦しい顔ばかりを見せていたタイガーも、さすがに大会ホストとなるとホストらしい顔を見せるから、すごい。
が、とりあえず、会場で人気を集めていたのは、やっぱり全米オープンチャンプに輝いたルーカス・グローバーだ。もう興奮は収まりましたかと問われたグローバーは「いやあ、まだまだ興奮しちゃってて……。うーん、でも少しは収まってきたかなあ」と、ニコニコ顔。クラブハウスから出てきても、練習場へ行っても、パッティンググリーンへ移動しても、どこへ行ってもギャラリーからサインや握手を求められるなんて経験は、きっと初めてだろう。だが、そんな忙しさも、うれしさを倍増させる出来事なのだろうなあ。

(サインに大忙しのグローバー。生まれて初めての忙しさ?)
Photo / Nozomu Nakajima 中島望
いまだに興奮気味なグローバーが、いや興奮気味だからこそかもしれないが、面白いジョークを言っていた。ものすごくうれしくて興奮していて、まるで雲の上を歩いている気分だという感じを表現するとき、英語では「walking on cloud 9」というフレーズをよく使う。しかし、グローバーは、その興奮がほんの少し収まってきたことを伝えるために、「うーん、今は、そうだなあ、cloud 4 ぐらいになったかなあ」。思わず、アメリカ人記者たちの間で笑いが漏れた。ナイスなジョーク!記者たちを笑わせることができるようになれば、選手も一人前?いや、笑いを取って一人前というのでは、まるで大阪芸人か、吉本か、って感じですか?
話は変わるが、大会ホストであるタイガーの記者会見は、いつもと少し様子が違った。いつもならタイガーのゴルフの調子や優勝への自信や、そんなこんなを尋ねる質問ばかりが飛ぶのだが、今回はタイガーの社交性や交友関係を問う質問が殺到。たとえば「大会期間中、オバマ大統領は来るのか?」とか、「マイケル・ジョーダンが今年、殿堂入りするけど、彼からどんな影響を受けた?」「ロジャー・フェデラーは今週はロンドンにいて忙しいみたいだけど、ここには来ないのか?連絡は取ったのか?」などなど。出てくる人物は、さすがにそれぞれのフィールドの大物ばかりで、大物は大物と交流するんだなあ、これぞ「類は友を呼ぶ」ってことかな、などと思わずにはいられない。

(どうですか、タイガーのこの笑顔?普段とは違います!)
Photo / Nozomu Nakajima 中島望
そして、きわめつけは、やっぱりこれだった。「マイケル・ジャクソンのファンだったのか?彼の死をどう受け止める?」タイガーの答えは、こうだった。「たぶん、ここにいる誰もが彼のファンだったはずだ。僕らの世代はみんなマイケル・ジャクソンの歌や踊りに影響を受けながら育ち、いつも、どんなときも、彼の歌を聞いてハッピーになった。すばらしいエンタテイナーだったと思う。すべての(現代の)アーチストはマイケル・ジャクソンを眺めながらその後を追いかけ、そうやって育ってきているのだと思う」
なるほどねえ。自分自身が特別なファンだったとは言わない。自分自身が特別にどう思うとも言わない。すべての人が、すべてのアーチストが……と置き換えながら話すところが王者流。大スターの発言は影響力も大きいから、言葉選びは一苦労だ。それにしても、記者会見で登場した大物の名前、一体、何人いただろう?残念ながら日本の有名人は登場回数ゼロでした。そりゃそうか……。
ともあれ、今日は開会セレモニーに出席し、大物の歌手ジェシカ・シンプソンを迎えて国歌を歌い、ミリタリー(軍隊)の人々も迎え、戦地から戻った負傷兵を讃え……それはそれは大忙し。それでも普段は見せないほど明るい笑顔でした。明日からは自分も試合に出るのに、練習する時間なんて、ありゃしない(でも、合間にちゃんとやっていた!)。いやあ、大物は大変だなあ……。

(左端がジェシカ・シンプソン。右の白いシャツの男性はシンプソンの恋人でダラス・カウボーイズQBのトニー・ロモ。赤いシャツの2人は戦地から負傷して帰還した兵隊さん。中央はタイガー、って言わなくてもわかりますね。笑)
Photo / Nozomu Nakajima 中島望