2009年08月19日
肉声はすごい!
全米プロは優勝へのポールポジションからタイガー・ウッズが破れるという驚きの結末。勝利を手に入れたのは韓国のY.E.ヤンだった。

Photo / 中島望 Nozomu Nakajima
ヤンは韓国で生まれ育った後、日本ツアーにも3年間参戦。そして米ツアーには08年から本格参戦。今年はアメリカ2年目だ。米ツアーにはアンソニー・キムやケビン・ナといった韓国系アメリカ人がいるが、彼らはアメリカで生まれたり育ったりしているから、子供のころから英語をしゃべっている。しかし、ヤンはそうではないから、英語は依然として外国語。つまり、優勝会見でも自分の英語で答えることができず、終始、通訳が入ってのやり取りとなった。
この形式の会見は、なかなか時間がかかる。英語の質問を通訳が韓国語に訳してヤンに伝え、ヤンが韓国語で答え、それを通訳が英語にしながら返答するというプロセスになる。当然ながら、ヤンと通訳が韓国語で言葉を交わしている間、会見場に座っているほぼ全記者がぼーっと眺めているしかない。これは、本当に歯がゆいものなのだ。
とうとう1人のアメリカ人記者が手を挙げ、こんなことを言った。「Y.E.、キミは英語が本当に一言も話せないんですか?もし少しでも言葉になるのであれば、18番グリーンでウイニングパットを沈めた瞬間の気持ちなりを何か英語にしてはくれないか?」
ヤンはしばし戸惑っていた。質問の意味を取り違えたのか、じっと考えたあと、こんな英語を口にした。フレーズにはなっていなかった。思いつく英語、単語をそのまま並べたものだった。
「Tiger chipping, miss the chipping and thinking just please.」
会見場は笑いに包まれた。
18番。ヤンは第2打をピン3メートルに付けていた。対するタイガーは第2打をグリーン左のラフに入れた。第3打のチップショットがもしもチップインしてバーディになったら、そしてもしも自分が3メートルから3パットでもしたら、いやまさかの4パットでもしたら……プレーオフの可能性、もっと言えば敗北の可能性もまだあった。だからヤンは、タイガーが第3打のチップに臨むとき、「お願いだからチップインだけはしないでほしい……」と、心の中で祈ってしまったのだ。
ヤンが口にした英語は、文法的に見れば「?」というものだが、アメリカ人記者たちは聞いた瞬間に大笑いした。誰にも、ヤンの意図したことがよく理解できた。タイガーのミラクルチップインが出ないよう、ひやひやしながら見守っていたヤンの心情が手に取るようにわかった。やっぱり選手の肉声というものは、たとえどんな英語であろうとも、通訳の英語を上回る。選手自身の言葉には、それほど価値がある。
ヘーゼルティンでは石川遼も自分の言葉で答えようとがんばっていた。今大会では石川の公式会見が組まれなかったため、数人のアメリカ人記者がそれぞれ突撃取材にやってきた。石川は時折り、言葉に詰まったり、質問を少し取り違えたりしたが、現時点で通訳なしであれだけ答えられるのは立派だ。というより、自力で答えようとする遼くんの姿勢が見上げたものだと思う。発音が違っていようと、文法的に間違っていようと、そんなことは誰も気にしない。選手が自分の気持ちを自分の言葉で伝えようとすることに意義があり、その言葉は通訳などの第3者によって作られる美しい英語より、ずっとずっと美しい。

Photo / 中島望 Nozomu Nakajima
優勝したヤン、初めてメジャーで予選通過を果たした石川。アジア人2人の英語を耳にしながら、肉声が持つパワーはやっぱり凄いなあなんてことをつくづく感じていた。



