2009年08月22日
海を渡るもの
全米プロでの出来事をあれこれ思い出してみると、そりゃあ一番印象的だったのはY.E.ヤンの優勝とタイガー・ウッズの敗北なんだけれど、もう1つ、どうしても忘れられない出来事がある。いや、忘れてはいけない出来事だと思う。
あれは大会初日だった。在米のオーストラリア人記者が近寄ってきて、こう言った。「おい、ソノコ、日本では、とんでもない事件があったんだって?」えっ、とんでもない事件?聞けば、その記者はサン・クロレラクラシックで石川遼の優勝を望んだファンがブレンダン・ジョーンズがパットを外したときに拍手した事件のことを言っていたのだ。なぜ、知ってるの?そう思って聞き返してみると、どうやらオーストラリア人選手のジョーンズとアダム・スコットを通じて、その拍手事件のことを知ったらしい。

Photo / 平岡純 Jun Hiraoka
さらに、オーストラリア人記者は続けた。「それでさあ、この会場で昨日、日本ツアーが正式にジョーンズに謝罪したんだって。知ってたかい?それほど大変な事件だったってことだろう?日本のメディアは、そのことを日本へは報じないのかい?」
うーん。日本人メディアとしては、コトの真相とジョーンズの気持ちを確かめて報じるべきだろう。そう思って、私と私の考えに同意してくれたM新聞のW記者はジョーンズに突撃取材した。ジョーンズいわく、「確かに丁寧な謝罪を受けたよ。それもあって、もうあの事件のことは忘れることにしたよ。それに、あの事件のあと、僕のウエブサイトに100通以上の激励メールももらえたし、だいたい日本人はマナーが良くて、今までだってあんなことに遭遇したことはなかったし。それに、あのとき何が悲しかったって、パットを外して拍手されたことより、僕自身がパットをミスったことのほうが悲しかったし、悔しかったんだ。だから、もういいんだよ。気にしてないよ、ホントに」。
ジョーンズの対応は「大人」だった。爽やかな笑顔だった。そして翌日、ジョーンズはスコアを伸ばし、もう少しで3日目はタイガーと同組で回ることになるぐらいの好プレーを見せた。ジョーンズの胸の中は、すっかり晴れていたのかな。そうだったら、いいのだけれど……。
しかし、オーストラリア人記者いわく、「ソノコは日本人だから、ブレンダンだってキミに向かって本当の本当の本音は言えないだろう。日本人はマナーがいいからって言ったのも、やっぱり無理して言ったんじゃないのかな」。うーん、そうなんだろうか……。本当はまだ気にしているのだろうか……。

Photo / 平岡純 Jun Hiraoka
ジョーンズへのJGTOによる謝罪というのは、ルール委員として来場していたJGTO専務理事の山中氏によるものだった。「正式に謝罪というより、遺憾の意を表明したってところです」。
私は日ごろから原稿を書いているDスポーツ紙、そしてW記者はM新聞に、ジョーンズへの謝罪という出来事を記事化し、掲載された。オーストラリア人記者は、この謝罪事件が日本へ報じられたのかどうかが気になっていたらしく、「あれは、どうした?」と再度尋ねてきた。「私とW記者の2人が報じましたよ」と答えると、オーストラリア人記者は「日本の2紙が報じた」と母国へ報じたようだ。
で、私が何を言いたいか――あの拍手事件は心ない一部の人々による行為だった。石川を応援する気持ちはわかるけれど、戦っている相手のミスに拍手するなどもってのほか。そういう恥ずべき出来事は、その場限りの出来事では済まず、そういう恥ずべき出来事こそが海を渡って世界へ伝わり、事後の経緯まで含めて報じられるのだ。
一部の人間による出来事が、海を渡って伝わったときには「日本の出来事」になる。そして「日本のメディアは外国人選手の気持ちなど無視するのか?」という具合に海外メディアから見られてしまう。だから、私とW記者は絶対にこの事件を記事化して、ジョーンズに対する敬意と謝意を表したかった。オーストラリア人記者は「日本の2紙が報じた」と書いたことで、ずいぶんほっとした様子だった。
オーストラリア人記者ばかりではない。伝え聞いたアメリカ人記者たちも、あきれ返っていた。せっかく石川遼が海外で奮闘しても、その石川ファンがマナーが悪すぎるなんてことが世界に発信されてしまったら、ファンが石川の評判を落とし、日本の評判を落とすようなものだ。せっかく日本でゴルフが盛り上がりつつあるときに、マナーの悪さで水をさすなんてことがないよう、みんなで気をつけようではないか。



